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3.海外衛星業界の動向

世界の衛星通信業界の現状と動向

衛星システム総研
代表 神谷直亮


 

 21世紀も5年目に突入した。世界はアナログからデジタルへの転換期に、大きく踏み出している。この重要な局面で、世界の衛星通信事業者が経験した新しい事態は、欧米のファイナンシャル・バイヤーによる株式買取といえる。

 一昨年のインマルサット社ユーテルサット社、昨年のパンアムサット社ニュー・スカイズ・サテライト社に続いて、今年の1月には、インテルサット社株式がファイナンシャル・バイヤーによって買い取られた。インテルサット社の株式を買い取ったのは、ゼウス・ホールデイング社(エイパックス、アポロ、MDPグローバル、ペルミラのファイナンシャル・バイヤー4社のコンソーシャム)である。買取金額は、50億ドルと推定されている。
 昨年パンアムサット社を買収したのは、KKR、カーライル、プロビデンス・エクイテイ・パートナーズの3社で、NSS社に食指を伸ばしたのは、ブラックストーン社である。業界の話題にはならなかったが、世界でナンバーワンの地位を確保しているSESグローバル社も例外ではない。同社の大株主は、GEキャピタルとルクセンブルグ銀行団である。今年は上述の6社を牛耳るファイナンシャル・バイヤーが、どのような戦略・戦術に出るのかが、最大の注目点となる。

 もう1つ、世界の動向として目に付くのは、衛星通信・衛星放送によるユビキタス・サービスの進展と多様化である。衛星通信本来の特有なサービスとして広域性があげられるが、やっとブロードバンド・インターネット、携帯電話サービス、デジタル・マルチメデイア放送、HDTV放送などの分野で、多様な活用が試みられるようになりつつある。
 
 Kuバンド中継器を使って、旅客機の乗客にブロードバンド・インターネット・サービスを提供しているのは、ボーイング社のコネクション・バイ・ボーイング(CbB)部門である。筆者はまだ利用した経験がないが、ルフトハンザのアメリカとドイツ間のフライト、全日空の成田―上海便、日本航空の成田―ロンドン便で、このフライトネットと名付けられたサービスを享受できるという。

 今後、船舶にも提供を始め、ユビキタス・ネットワークの構築に向けてまい進している。航空機に搭載する送受信アンテナを、CbBに供給しているのは、日本の三菱電機である。衛星携帯電話は、日本にいるとあまり目にとまらないが、1月にパシフィコ横浜で行われた災害対策技術展に行ったら、日本デジコム社のブースに、イリジウム、エイセス、スラヤの3社の衛星携帯電話が展示されていた。日本政府、新聞社、テレビ局、商社などが、主に海外の危険地域に出向く時に借りていくという。特にスラヤは、イラクとアフガニスタンで普及しており、両国に出かける場合は必需品になっている。

 HDTVについては、昨年1月1日からベルギーのアルファカム社とルクセンブルグのSESグローバル社が、ヨーロッパで2チャンネル(個別受信向けの"HD1"とデジタル・シネマ向けの"HDe")の放送を始めたことで、世界的な潮流になった。今年の末には、ドイツのプルミエール・ワールドが、2006年には、イギリスのBSkyBがHDTV放送を開始する計画を発表しており、日本、アメリカに次ぐ大きなマーケットがカバーされる。アルファカム社が使用しているのは、アストラ2H衛星である。

 今年の注目点は、何といっても中国と言える。中国では、チャイナサット社がアルカテル・スペース社にチャイナサット9衛星を発注し、国内でシノサット2衛星を製作中である。東経92.2度に割り当てられたBS軌道を使用して、デジタルSDTV衛星放送に加えて、中国の威信をかけたHDTV放送の準備に突入している。

 デジタル・マルチメデイア放送(DMB)の分野では、昨年の10月から日本のモバイル放送が、ユビキタス視聴を掲げてすでに放送を開始した。昨年3月に打ち上げられたMBSAT−1衛星のSバンド中継器が使用されている。プラットフォーム名は"モバHO!"である。韓国でも同衛星を使用するTUメデイアの試験放送が、今年1月10日から始まり、5月から商用サービスに入ると言われている。

 アメリカでは、XMサテライト・ラジオシリウス・サテライト・ラジオの2社が、すでに音楽・音声・データのサービスを始めており、2006年頃から、ビデオ放送も開始する計画である。乗用車、列車、旅客機の中で、DMBサービスを楽しめる時代がすぐそこに来ている。

 最後に何といっても、一層のグローバル化戦略が広まっている。特にテレポートを基点とする衛星と光ファーバーを統合したグローバル化が進んでいる。

 引き金になったのは、昨年行われたSESアメリコム社によるヴェレスター社の買収と言ってよい。これで同社は、ワシントン州のブリュースター、スイスのロイクなど5ヶ所のテレポートを手に入れて、衛星と光ファイバー通信の統合化を完成させた。このグローバル化の観点から無視できないのが、インテルサット社によるテルスター衛星資産の買収である。インテルサット社は、買収した5機の衛星をインテルサット・アメリカス(IA)と改名して、アメリカ国内向けサービスを開始した。40年も待ちに待った悲願のアメリカ国内サービスを開始したことで、名実ともにグローバル・オペレーターになったと言ってよい。

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