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2.衛星業界の動向
NEC東芝スペースシステム株式会社

 
  2004年10月30日午前4時11分、轟音とともにロシアの通信衛星Express-AM1がプロトンロケットにより、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。 オレンジ色に輝く炎を引きながら上昇していくロケットを見守る多くのロシア人関係者の中に数人の日本人の姿があった。 彼らは、この衛星のペイロードモジュールを担当した住友商事NEC及びNTスペースの関係者であった・・・。

Express−AM1打ち上げ(バイコヌール射場)

 今回は、当社が国営のロシア衛星通信会社(RSCC)から受注し、2005年1月31日に軌道上試験完了をもって最終引渡しが行われたExpress−AM1ペイロードモジュールについて紹介を致します。 
 この衛星は、RSCC社が所有するExpress−AMシリーズ通信衛星の一つで、東経40度の静止軌道上から、ヨーロッパ、アフリカ、中近東及びインドをカバーする通信衛星です。 このExpress−AMシリーズ衛星の特徴は、衛星バスモジュール(姿勢制御系、太陽電池パドル、電源系等からなる衛星バス)とペイロードモジュール(通信用中継器、アンテナ及びそれらを搭載する構体・熱制御系)が、構造的にハッキリ分離されていることです。 これにより、衛星バスとペイロードの平行した製造作業が可能となり、最終段階である衛星全体のインテグレーション及び試験はわずか3ヶ月で可能となります。実際、Express−AM1衛星の場合、ペイロードモジュールを引き渡してから、3ヶ月後に射場へ搬入され、その1ヶ月後に打ち上げられました。

ペイロードモジュール全景


 Express−AMシリーズの衛星バスは、ロシアの衛星メーカーであるNPO−PM社が製造してきましたが、そのペイロードは、欧州のメーカーが独占的に供給していました。 Express−AM1衛星については、当社の豊富な衛星中継器(トランスポンダ)の輸出実績を背景に住友商事、NECとのチーミングで売り込みを図った結果、RSCC社から初めてアンテナを含むペイロードモジュール全体の受注に成功しました。

 Express−AM1ペイロードモジュールは、Ku−Band 18CHとC−Band 9CH及びL−Band 1CH(いずれも予備を除く現用CH数)を有し、4面の展開アンテナを用いてC−Bandワイドヨーロッパ、Ku−Bandヨーロッパ、Ku−Bandワイドヨーロッパ及びKu−Bandインドの4つの成形ビーム、更にKuバンド、Cバンド及びLバンドの各グローバルアンテナによる3つのビームを含め、合計7つのビームを有する最先端の通信ペイロードです。

衛星全景(打ち上げ時状態) NPO-PM提供

 一方、衛星バスは、NPO−PM社製の実績のあるバスで、主要な電子機器部は予圧されており、その設計思想は、西側の衛星とは異なり非常に興味深いものでした。一例を示すと、流体ループによる能動的な熱制御は、それ自体の重量効率は悪いが、軌道上運用も容易であり、搭載機器に対しては非常に安定でマイルドな温度環境を提供するものであり、総合的に見ても西側衛星に遜色ないものでした。恐らくパワフルなロケットをベースにしてきた設計思想の違いがあるのではないかと思われますが、その実績は十分にあり、信頼性も高いものでした。
 現実のプロジェクト遂行の場面では、客先RSCCとの交渉、衛星バス側のNPO−PM社との技術インタフェース、作業インタフェースの場面において、言葉の問題、文化の違い、技術バックボーンの違いから大変な苦労をしました。 しかしながら、徐々に相互理解が深まっていき、最後には、このプロジェクトを成功させるという共通の目的に向かってひとつになることが出来たと思います。 

 2004年10月30日に無事打ち上げられて後、約3ヶ月をかけて、通信ペイロードの軌道上試験が行われ、すべての性能が仕様を満足していることが確認されました。 
ロシアの実績のある衛星バス及びロケットと日本の最先端の通信ペイロード技術の組み合わせとなったこのプロジェクトの成功をきっかけに、両国の宇宙協力、宇宙ビジネスがより発展することを期待してやみません。

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