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世界の衛星通信業界の動向

世界の衛星通信業界の動向

6月に開催された「アジア・ケーブル&サテライト2006(CASBAA2006)」会議と「コミュニックアジア2006(CA2006)」展示会が予定通り終了して、今年前半の業界動向が明らかになった。まず何と言っても最大の出来事は、インテルサット社によるパンアムサット社の買収である。去る2月初めにワシントンで開催された「サテライト2006」会議の折に、インテルサット社のデイビッド・マグレードCEO(最高経営責任者)に聞いたら、「7月には買収が実現するだろう」と述べていた。まさに予告通り「CA2006」の展示を最後に、パンアムサット社は7月3日に消滅した。よく知られている通り、インテルサット社は、パンアムサット社の買収を発表する前に、ロラール・スカイネット社からアメリカ国内向けの衛星を5機買い取っている。また、買収される側のパンアムサット社は、イギリスに本社を構えていたヨーロップスター社を、昨年アルカテル社から買い取った。これら2つの取引を考慮に入れると、新しく発足したインテルサット社は、名実共に世界でナンバー1の地位に付く。

写真:パンアムサット社の買収を実現したインテルサット社ワシントンDC本部
写真:パンアムサット社の買収を実現したインテルサット社ワシントンDC本部

写真:米メリーランド州にオープンしたインテルサット社のマウンテンサイド・テレポート(セキュリティを理由に敢えてロゴを入れていない)
写真:米メリーランド州にオープンしたインテルサット社のマウンテンサイド・テレポート(セキュリティを理由に敢えてロゴを入れていない)

一方、インテルサット社と衛星通信業界の覇権を競うSESグローバル社は、今年2月にニュー・スカイ・サテライト社(NSS)の合併を実現している。SESグローバル社がこのアクションを取ったのは、インテルサット社がパンアムサット社の買収を決めた直後のことである。オランダに本社を置くNSS社は、SESグローバル社がカバーしきれていない中近東アフリカ地域に強いのが特徴で、世界的にSESグローバルとインテルサットの両社は強力なライバルになる。
いずれにしても日本からみて最も気がかりなのは、インテルサットとSESグローバルの2大衛星通信会社が占める世界のマーケットシェアーが、50%を超えるという恐るべき現実といえる。

写真:ルクセンブルグに本社を構えるSESグローバル社の子会社、SES明日トラが運用するテレポート
写真:ルクセンブルグに本社を構えるSESグローバル社の子会社、SES明日トラが運用するテレポート

「CASBAA2006」と「CA2006」で浮上した新しい話題は、中国の動向である。よく知られているように中国はチャイナサットとシノサットの2大衛星通信事業者を抱えている。さらに香港にはアジアサットとAPTサテライトの2社が存在する。これら4社を中国政府がどのように統合していくのかに関しては、今のところ諸説紛々の状態であるが、北京オリンピック前に4社の統合が実現し、インテルサットとSESグローバルの両社に対抗でできる巨大な衛星通信事業者が誕生するという説が最も有力である。特に最近になって4社統合説が強まっているのは、中国航天科技集団の実力者であったルイ・シャオ・ウ氏がジャン・ハイナン氏に代わって、チャイナサット社の社長職についたことがあげられる。ちなみに現在チャイナサット社は、チャイナサット9、チャイナサット6Bの両衛星をアルカテル・アレニア・スペース社で製作中である。シノサット社は、シノサット2、3、4の3機の衛星を中国国内で製作しており、さらにシノサット5衛星に関するプロポーザルを、ヨーロッパのアルカテル・アレニア・スペースとアストリウム社から取り寄せて鋭意評価を行なっている。さらにアジアサット社は、第5世代のアジアサット5衛星をアメリカのスペース・システムズ・ロラール社に発注し、2008年に打ち上げられる。これら自国と地域の衛星フリートに加えて、中国は、初輸出となるナイジェリア向けのナイジサット1衛星、2件目のベネズエラ向けベネサット1衛星の製作・打ち上げを請け負っている。衛星通信サービスのみならず、衛星製作や打ち上げサービスの面でも中国は無視できない存在になってきたと言える。

アプリケーションの面では、3つの潮流が顕著になってきている。衛星HDTV放送、Ka帯衛星ブロードバンド、IPTV番組配信プラットフォームである。アメリカでは、HDTVプラットフォーム運用サービスを行っていたレインボーDBS社が、昨年4月末で「VOOM」の放送を中止し、一時下火になったように思われた。しかし、その後エコスター社が「VOOM」用に使われていたレインボー1衛星と静止軌道、サウス・ダコタ州ブラックホークに設置されていた衛星管制センター、さらに15チャンネルのHDTV番組をすべて買い取って、「デイッシュHD」プラットフォームを立ち上げた。世界最大のHDTVプラットフォームが、名前を変えて放送サービスを開始したと言ってよい。エコスター社の競争相手であるデイレクTV社も、スペースウエイ1、2衛星を巧みに活用して、地域限定ローカル・トウ・ローカルのHDTV放送に力を入れ始めている。ヨーロッパでは、ベルギーのアルファカム社の「HD1、HD2」に加えて、ドイツのプルミエールが2月初めからドイツとオーストリアの視聴者を対象に「プルミエールHD」放送を開始した。
衛星ブロードバンド・サービスについては、アメリカのワイルドブルーとカナダのテレサットの両社が、着々と加入者を増やしている。ワイルドブルーは、アニックF-2衛星に搭載されている31本のKaバンド・スポットビームを駆使して、昨年6月からサービスを開始した。去る2月の「サテライト2006」では、「今年末には10万加入に増やす」と意気込んでいた。これを裏付けるようにワイルドブルー社は、ワイルドブルー1衛星の打ち上げを発表し、テレサット・カナダ社は、世界最大となる84本のKaバンド中継器を搭載するアニックG-1衛星の調達計画を公表している。翻ってアジア太平洋圏では、シン・サテライト社が2005年8月に打ち上げたアイピースター衛星(別名タイコム4)を駆使して、タイ、ベトナム、ミヤンマー、オーストラリア、ニュージーランドで、商用ブロードバンド・インターネット・サービスを始めた。さらに同社のカセムセット会長が「CA2006」の会場で、「北京にゲートウエイが完成し、トライアル・サービスを始めた」と述べていた。
IPTVは、日本ではあまり注目されていないが、アメリカでは地上系通信事業者が、ケーブルテレビに対抗してトリプル・プレイ・サービスを推進し始め、衛星による番組配信プラットフォ−ムが注目の的になっている。最も先行しているのはSESアメリコム社で、「IPプライム」と名付けられたプラットフォームを構築して、すでにベル・サウス社と実証実験を始めたという。これを追いかけるようにテレサット・カナダとインテルサットの両社が、「IPTVヘッドエンド・イン・ザ・スカイ」サービスを始めることになった。アジアでは、やはり中国でのIPTVの進展状況が、今年後半の注目の的になろう。

神谷直亮
国際部長