日本衛星ビジネス協会

資料室 ARCHIVES

TOP > 資料室 > ビジネス事例紹介 > 株式会社日本総合研究所

ビジネス事例紹介

株式会社日本総合研究所の宇宙に係る事業の概況

(1)株式会社日本総合研究所の宇宙に係る事業の概況

株式会社日本総合研究所(以下、「当社」といいます。)は、三井住友フィナンシャルグループの一翼を担う日本を代表するシンクタンクです。
当社コンサルティング部門は、官民連携事業により様々な事業の創生や経済の活性化の支援を目的に、国及び自治体が推し進める数多くのPFI事業の支援業務を担当してきました。
平成23年にPFI法が改正され人工衛星がPFI事業の対象となり、国内初の人工衛星PFI事業である気象庁殿静止地球環境観測衛星の運用等事業及び内閣府殿準天頂衛星システムの運用等事業のPFI事業の支援業務を受注し、国内トップクラスの人工衛星PFI事業の支援業務実績を誇るに至っています。
本稿では、人工衛星PFI事業について説明し、当社が担当している人工衛星PFI事業支援業務及び今後の取組みについて報告させて頂きます。
当社ホームページ: https://www.jri.co.jp/

(2)当社の人工衛星PFI事業の支援業務について

当社は、日本の宇宙事業を官民連携事業として活性化を目的に、以下の2つの人工衛星PFI事業の支援業務を実施しています。
1.気象庁殿 静止地球環境観測衛星の運用等事業 
2.内閣府殿 準天頂衛星システムの運用等事業

PFI事業の支援業務は、PFI導入可能性調査業務、アドバイザリ業務、モニタリング業務に分類されます。
支援業務期間として、PFI導入可能性調査は1年程度、アドバイザリ業務は1年半から2年程度の期間実施されます。モニタリング業務は事業期間に依存します。

日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

○PFI導入可能性調査

PFI導入可能性調査は、以下の@、A、Bの調査を実施することを基本としています。発注者の事業コンセプトをベースに、民間事業者等へのヒアリングを通じて、民間事業者の要望や課題等を整理し、最終的に法務面、財務面、技術面等で官民ともに最適な事業となるような事業スキームを検討することを目的としています。

日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

○アドバイザリ業務

 アドバイザリ業務は、以下の@からGの業務を実施することを基本としています。PFI導入可能性調査の結果に基づき、民間事業者の応募手続きから事業契約締結までの支援を実施します。

日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

○モニタリング業務

モニタリング業務は、以下の業務を実施することを基本としています。モニタリング業務は、要求水準もしくは民間事業者からの提案に基づく仕様を満たした状態で事業が履行されているかを確認する業務です。

日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

(3)当社の今後の取組みについて

PFI事業は、官民ともにサービス面、コスト面、リスク面等でメリット、デメリットが存在しますが、人工衛星PFI事業として、国のメリットは、宇宙事業特有の大きな事業費を平準化することができるため、宇宙事業を創出する機会を増やすことができる点が大きいと考えます。また、民間事業者の人工衛星PFI事業のメリットは、民間事業者主導の事業の機会と宇宙事業の市場活性化及び新規市場創出の可能性にあると当社は認識しています。

日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

周知のとおり、日本の宇宙産業は、米国のものと比較すると予算規模、市場基盤・環境等の相違点は多いです。例えば、年間のロケット打ち上げ数や衛星製造数の違いを見ても、一目瞭然です。また、シリコンバレーを中心にスペースX社、Sky Box Imaging社等のベンチャー企業が台頭し、国の手を借りずに宇宙事業を実施することができる土壌、環境等が少なからずあります。
日本においても、官民連携事業から、国の手を借りずに実施する民間事業へと移行することが中長期的には必要であると考えます。そのためには、人工衛星PFI事業により民間事業者主導の事業機会を創出することが有効です。PFI事業により、人工衛星、ロケットの製造・試験プロセスの最適化が図られ、高品質且つ廉価な公共サービス等が提供され、その公共サービスを活用した既存市場の活性化、新規産業の創出が日本国内にとどまらずグローバルになされ、日本の宇宙事業の市場構造の改革が行われることなどが期待できます。また、大きな事業費を特徴に持つ宇宙事業の資金調達方法としてプロジェクトファイナンス等の手法により、金融環境も活性化されることも期待できます。
さらに、政府の定める宇宙基本法や新「宇宙基本計画」(素案)にもある「国民生活の向上」、「産業振興」、「国際協力」の3つのキーワードが当社は重要と認識しています。
人工衛星PFI事業は、宇宙市場の活性化及び新規市場組成に係る大きなポテンシャルを有しているため、当社は、人工衛星PFI事業のアドバイザリ業務において日本トップクラスの実績を最大限活用し、この3つのキーワードに係る日本の宇宙政策に貢献できるよう、人工衛星PFI事業の支援業務を継続して取組みつつ、人工衛星PFI事業等から派生する宇宙事業についても、国及び民間事業者へ提案しながら、取り組んでいきたいと考えています。

(4)人工衛星PFI事業について

PFI事業とは、Private Financial Initiative事業の略であり、官民連携事業の一つとして、公共施設等の整備、運営、維持管理等を民間企業の資金、経営能力、技術力を活用して行う事業をいいます。公共サービスを事業主体である民間事業者が実施することにより、良質かつ廉価なサービスが提供されることを目的としています。
PFI事業の一般的な特徴と重複しますが、以下に、人工衛星PFI事業にフォーカスした内容を整理しました。日本では、現時点では、宇宙に係るPFI事業は、人工衛星PFI事業のみであり、気象庁殿静止地球環境観測衛星の運用等事業、防衛省殿Xバンド衛星通信中継機能等の整備・運営事業、内閣府殿 準天頂衛星システムの運用等事業の3事例があります。3事例について、事業費、VFM(Value For Money)、事業方式、官民の役割分担を整理しました。
VFMとは、国が従来方式で事業を実施する場合と比べて、民間事業者がPFI方式で事業を実施する場合の方がどれだけ事業費を削減できるかを示す割合のことです。

出典:各事業の実施方針、入札説明書等により日本総研にて作成
出典:各事業の実施方針、入札説明書等により日本総研にて作成

○PFI事業の基本的な事業スキーム

PFI事業では、参画する民間事業者が、SPC(Special Purpose Company)という特別目的会社を設立します。SPCは、株式会社が一般的であり、参画する民間事業者より出資されます。SPC設立により、複数の事業を一体的に管理・運営することが可能となること、コーポレートファイナンスとして実施するのではなくプロジェクトファイナンスとして資金調達が実施できること、SPCによる資金調達のため出資企業のバランスシートには負債を記載しなくてよくオフバランスとすることができるため出資企業の財務に与える影響を軽減できること、倒産隔離ができること、等のPFI方式の特徴が挙げられます。人工衛星PFI事業は他のPFI事業に比べ、総事業費が大きいため、オフバランスは、民間事業者にとって、メリットです。

出典:日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

○人工衛星PFI事業の事業範囲

人工衛星PFI事業は、人工衛星の製造、打ち上げ、地上局の整備、維持管理、運用に大きく分類できます。日本の人工衛星PFI事業では、人工衛星の製造、打ち上げ、地上局の整備、維持管理、運用を一体的に実施するPFI事業と、人工衛星の製造、打ち上げをPFI事業の範囲から分離し国直営の事業とし、地上局の整備、維持管理、運用のみをPFI事業とする2つのケースがあります。PFI事業の事業範囲は、国、民間事業者のリスクの分担の考え方と事業費の平準化の考え方によります。

○国の財政負担の平準化

従来の人工衛星に係る国直営の事業では、人工衛星及び地上局の整備による多額の初期コストが突出的に発生するデメリットがあります。 人工衛星PFI事業では、人工衛星及び地上局等の施設の整備等に係る資金は民間事業者が調達し、公共サービス提供の開始をもって、施設の整備等の費用、維持管理費、運用費をサービス対価として国から民間事業者へと分割して支払われるのが基本的なスキームであり、財政負担を平準化できるのがメリットです。

出典:日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

○国の財政負担総額の削減の可能性

PFI事業では、詳細な仕様ではなく要求水準(機能、性能等)で発注すること、SPCにより施設の整備、運用、維持管理業務を一体的に運営すること、等により事業費の削減ができる可能性があります。人工衛星PFI事業の3事例については、全ての事業においてVFM(Value For Money)が出ており、国の財政負担が削減できています。
一方で、民間事業者による事業運営のため、SPCの開業費等、事業リスクに付保する保険、民間事業者による資金調達による金利返済、配当支払い等の支出が発生するため、削減につながらない場合もあります。

出典:日本総研にて作成
出典:日本総研にて作成

○事業リスクの分担

従来からの国直営事業としての人工衛星及び地上局の整備及び運用は、国が全てのリスクを負う形となっていました。PFI事業では、民間事業者と事業リスクを適切に分担することで、PFI事業の活性化とリスク回避が適切に実施されます。

○要求水準による発注により、民間事業者のノウハウを最大限活用した事業の創出

PFI事業は、公共施設の発注主体が詳細な仕様を記載した仕様書による発注形態をとることはせず、要求水準書と呼ばれる要求水準(機能、性能等)を記載した文書により発注することが一般的です。要求水準による発注により、民間事業者の有する技術力、経営能力等のノウハウが大いに活用される余地を残して、入札等を行うことにより高品質で廉価なサービス提供が実現できる可能性があります。

○民間事業者の事業機会の創出と宇宙事業の市場としての活性化

従来からの人工衛星及び地上局の整備及び運用に係る事業は、仕様書に基づいた研究開発型の発注形態を国、JAXA殿が中心となり主導してきました。ロケットの打ち上げ成功率の向上、宇宙空間で人工衛星等が設計寿命を全うできる技術の確立等により、近年の宇宙に係る事業は、研究開発型中心から実用型・商用型へと移行してきています。
特に実用型・商用型は、防衛・安全保障の点を除き、事業性を伴うため民間事業者主導で実施すべきものであると考えますが、宇宙事業の事業費が大きく、民間事業者のリスクも大きく、また事業機会はそれほど多くないため、民間事業者の事業機会の創出にはPFI事業は、適したものと考えます。
なお、研究開発型は、開発リスク、スケジュールリスク等が必ず伴うため、民間事業者が負うリスクが大きいため人工衛星PFI事業では、不向きであると考えます。

○情報セキュリティについて

国が実施する宇宙事業は、高い情報セキュリティを必要とする場合があります。従来方式の場合は、事業全体を国が実施するため管理が行いやすく、高いセキュリティレベルを維持しやすいというメリットがありますが、PFI事業は、事業としての透明性の確保の必要性があるため、高い情報セキュリティの維持を必要とする場合は、不向きな場合があります。

以上