日本衛星ビジネス協会

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ビジネス事例紹介

宇宙通信(株)の取り組み 〜衛星ビジネスの新たな成長に向けて〜

はじめに

宇宙通信(株)は現在4機の通信衛星スーパーバードを保有しており、日本全土はもとよりアジア・太平洋のほぼ全域をカバーし、衛星通信・衛星放送サービスを提供しています。
事業・サービスの面では、以下の3つの領域で競争力のある商品の開発を進めています。

スーパーバードB2/C/D号機のカバレッジ・衛星写真

1. 災害対策・BCP(事業継続計画)
(1)次世代型IP-VSATサービス「Esbird

災害時のバックアップ回線としての衛星利用は広く知られていますが、当社は官公庁や自治体、ライフライン系企業の“BCPソリューション”にカスタマイズした新たなIP-VSATサービス「Esbird」を立ち上げました。Esbirdは長年衛星を利用されてきたお客様企業との共同研究の結果実現したサービスで、従来のサービスとは異なる以下のような特徴を持っています。

  • IPベースの伝送方式・可変伝送速度
    通信プロトコルとしてIP伝送を採用。衛星と地上網のシームレスなネットワークを構築します。
    このシステムは通信中にデータの容量を感知し、回線接続を維持したまま伝送速度を自動調節するので、経済的な帯域利用が可能です。
  • お客様ネットワークの一括制御・管理
    お客様のネットワークは当社のセンター局(HUB局)から一括制御・管理します。お客様はセンター局構築の高額な設備投資を必要とせず、運用面の負担も大幅に軽減されます。
    お客様が使用する機器はVSAT仕様ですので、無線従事者を確保する必要がありません。
  • お客様ネットワーク同士のクロスネットを実現
    お客様どうしで任意の拠点を指定し、クロスネット(ネットワーク間接続)することが可能です。
    同業種・グループ企業間で災害時の緊急連絡回線の融通・相互利用が可能となります。
  • 国内メーカーのマルチベンダー化と豊富なオプション
    国内メーカーのマルチベンダー化により、信頼性の高いネットワークの構築を実現します。
    設備導入後は、国内メーカーによるきめ細かいアフターサポートを受けられます。
    固定局の他に、可搬局、車載局、大型アンテナ、TWTA大出力アンプ、送信電力制御装置など豊富なオプションがあり、オーダーメード的なシステム構築が可能です。

Esbirdサービスのセンター局・写真

(2)『緊急地震速報』の衛星配信

『緊急地震速報』は、地震被害の軽減が期待される新しい地震情報で、今年から気象庁が一部情報の提供を開始します。当社は、この情報を防災対策に役立てたいお客様に向けて衛星による全国配信サービスを開始します。将来は、津波予報などの各種災害情報も合わせて配信する予定です。

「緊急地震速報」衛星配信サービスのイメージ図

2. 移動体・ユビキタス
(1)船舶向けブロードバンドコンテンツ配信

当社は今年3月から、船舶向けブロードバンドコンテンツ配信、「海洋ブロードバンド」サービスの提供を開始しました。このサービスは、船舶からの上り回線に船舶無線のスタンダードであるインマルサット回線を、船舶への下り回線にスーパーバードを用いることで、ウェブサイトの閲覧など通信量が大きい下り回線において、通信速度が従来の10倍以上に高速化されます。常時接続の定額料金制を敷くことで回線料金の低廉化もはかりました。
サービスエリアは日本近海から開始しますが、需要の動向に応じアジア周辺海域へのサービスエリア拡大を検討していきます。

海洋ブロードバンドサービスのイメージ図

(2)航空機向けインターネット接続「Connexion by Boeing」

当社は2003年からBoeing社の航空機向けインターネット接続サービス「コネクション・バイ・ボーイング(Connexion by Boeing)」向けにスーパーバードC号機の衛星回線とアジア地域ゲートウェイ業務を提供していますが、アジア・太平洋地域だけでなくインド洋地域向けの衛星回線の提供も始めます。

3. コンテンツ流通
(1)衛星によるセミナー中継サービス

当社は、通信衛星と光ファイバーを組み合わせた、簡単・高画質の衛星中継システムをパッケージ化した「セミナー中継サービス」により、各種有資格者団体や教育機関、遠隔研修・教育のニーズがある企業向けにセミナーやイベントの中継を実施しています。従来インターネット回線を使った研修やe-learningを導入していた企業が本サービスに切り換える事例が多く、衛星ライブ映像が実現する臨場感や映像品質の安定性、会場設営が容易な点などが評価されています。

(2)CATV向けデジタルコンテンツ配信(i-HITS)

CATV向けのデジタルコンテンツ配信事業を推進する子会社のMi-HITSは、CATV局と共同でビデオ・オン・デマンド(VOD)実験を開始するなど付加価値サービスの実現に取り組んでおり、現在衛星・地上を合わせたi-HITSサービス利用局は全国140局を超え多CH視聴世帯数も360万世帯を突破し、国内HITS事業で確固たる顧客基盤を確立しています。今年4月にはHDTV番組の配信も開始しました。

終わりに

国内外ともに衛星ビジネスは成熟化し、次なる成長段階に至る「踊り場」的状況にありますが、本格的な無線ブロードバンド社会の到来を迎え、新たな成長の機会は増していくと思われます。
当社はこれからも衛星の強みを発揮できる分野に競争力のある商品・サービスを投入し、市場を開拓するパイオニアであり続けたいと考えています。