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ビジネス事例紹介

三菱電機株式会社の宇宙事業概況

三菱電機株式会社は、商用衛星をはじめとして、国内官需衛星、衛星管制地上システム並びに天文観測用大型望遠鏡など宇宙・天文分野に亘る宇宙事業を展開している。
2009年10月、当社宇宙事業として初めてとなるマスコミ向け事業説明会を開催し、当社戦略機種と位置づけている人工衛星を中心とした事業説明と共に今後の展開について報告させて頂いた。(参考URL:http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2009/1022-b.pdf )
本稿では、同説明会でも紹介したが、宇宙事業における国内外でエポックメーキングとなるプロジェクトついてご報告させて頂く。

(1)SingTel社/ CHT社向け「ST-2」商用通信衛星 

日本のメーカーとして、初めて自社製の国産標準衛星バス「DS2000」を用いて、国際商用通信衛星市場に参入を果たした衛星である。
2008年12月、シンガポールSingapore Telecommunications Limited(以下、SingTel社)と台湾Chunghwa Telecom Company Limited(以下、CHT社)から、両社の共同調達による次期通信衛星「ST-2」※1を国際入札の結果、第一交渉権を得て受注した。

※1:SingTel社とCHT社が共同所有する商用通信衛星「ST-1」の後継衛星

DS2000

「DS2000」は、宇宙開発事業団※2(NASDA)殿の技術試験衛星[型「きく8号」をベースに開発したものである。
「ST-2」提案に際しては、「DS2000」を採用した衛星である国土交通省殿/気象庁殿の運輸多目的衛星新2号「ひまわり7号」とスカパーJSAT株式会社殿の「スーパーバードC2号機」での軌道上運用実績をベースに信頼性を確保しつつ、コスト削減を図った。

※2:2003年10月1日、宇宙開発事業団は、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所と共に現在の宇宙航空研究開発機構(JAXA)に統合。


業者決定に当って、SingTel社とCHT社では、技術、価格並びに開発前提条件等総合的な評価を行ったが、中でも「スーパーバードC2号機」において、衛星の設計、製造、打ち上げ、衛星管制設備の構築に加え、軌道上での性能確認試験完了後の衛星引き渡しまでを一貫して行うDIO(Delivery In Orbit)契約を国産商用衛星として初めて締結し、完遂した実績を有していたことが大きく寄与した。更に、当社の衛星製作拠点である鎌倉製作所に併設しているSatellite Operation Center(SOC)による衛星引渡し後のバックアップサービスを提供できる体制を有していることも評価され、両社に対して安心感を与えたこともポイントのひとつである。SOCでは、顧客への軌道上引渡しに向けて衛星打ち上げ後の軌道投入から軌道上試験を行い、その後の緊急対応についても可能であり、国際商用ビジネスを展開する上で不可欠な設備である。
「ST-2」は、2011年第2四半期にフランスのアリアンロケットにより、フランス領ギアナの打ち上げ射場より打ち上げられる予定。
当社は、本衛星の受注を機に国際商用通信衛星市場への本格的な事業展開を目指している。

(2)気象庁殿向け 静止地球環境観測衛星「ひまわり8号及び9号」

静止地球環境観測衛星
「ひまわり8号及び9号」
静止地球環境観測衛星
「ひまわり8号及び9号」

日本メーカーとして、「ひまわり7号」に続いて、連続受注を達成した衛星である。
「ひまわり8号及び9号」の調達は、国際入札として、2009年7月に当社を含む国内外の主要衛星メーカーが参加して行われ、提案価格と技術の総合評価の結果、当社が受注した。
当社が2006年に納入した「ひまわり7号」の開発・運用で培った経験を活かし、実績に基づいた信頼性の向上とコスト削減を図った上で提案を行ったことが、今回の受注につながったものと考えている。
地球観測機能を大幅に強化した「ひまわり8号及び9号」は、地球温暖化に代表される地球環境問題や集中豪雨による災害等の気象環境問題に取り組む為の国家の重要な防災インフラの一つである。
また、現在運用中の「ひまわり6号」は米国製であるが、「ひまわり7号」が本運用に移行する2010年7月頃からは、「ひまわり8号及び9号」を含めて約20年間に亘り、国産衛星が日本をはじめ、アジア・太平洋地域の30数カ国22億人以上の方々の防災等に国際貢献する重要な役割を担うこととなる。
当社は今後共、社会インフラとしての宇宙利用システムの構築を図るべく、高い信頼性と品質の衛星の開発・製造を続け、国内外での衛星事業拡大に向けて活動していく。


(3)米国オービタルサイエンス社向け NASA宇宙貨物輸送機用近傍接近システム

米航空宇宙局(NASA)及びオービタルサイエンス社(OSC社)から高い評価を受け、現在米国で開発中の宇宙貨物輸送機「シグナス」用システム機器として初めて採用され、「シグナス」開発担当業者であるOSC社から受注したものである。
2009年9月にH−IIBにて打ち上げられた宇宙ステーション補給機HTVは、所期のミッションを成功裏に終了したが、このHTVに使用され実証された機器のひとつが、「HTV近傍接近システム」である。OSC社と当社との契約総額は約60億円、当社鎌倉製作所にて開発、製造し、2010年から2014年にかけて9機分のシステムを順次納入する予定である。

構成図

この近傍接近システムは、「シグナス」がISSとランデブー・ドッキングするときに、日本実験棟「きぼう」に搭載されている近傍通信システムと姿勢制御データや動作状態をやり取りし、ドッキングを安全に誘導する重要な通信機器である。ISSとの通信を行うトランスポンダー、送受信を1本のアンテナで行うダイプレクサー及び各データを処理するデータハンドリングプロセッサーで構成されている(右図参照)。


本システムは、前述のとおり、2009年9月のHTVとISSとのドッキング成功により性能が実証されたものである。JAXA殿からの業務委託として開発した本システムが、宇宙先進国である米国NASAに評価され、「シグナス」用として採用されたことは、当社のみならず日本の宇宙産業に係わる方々に大きな希望を与えるものと考える。

ISSと宇宙輸送機シグナス
ISSと宇宙輸送機シグナス

当社は、300を超える海外商用衛星プロジェクトに衛星搭載機器の供給を行っており、太陽電池パネル、ヒートパイプパネル及びリチウムイオンバッテリに関しては、30%を超えるシェアと数多くの搭載実績を有している。今回のオービタルサイエンス社からの受注により、衛星搭載機器に関する当社機器の品質の高さが改めて認知され、新たな販路の拡大につながることを期待している。
以上