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ビジネス事例紹介

NECの宇宙に対する取り組み

<STS−127クルー NECに来たる>

平成21年12月8日、マーク・ポランスキー船長をはじめとするSTS−127のクルー4名とフライトディレクターが、社長以下400名の社員と近郊の港区立芝小学校児童130名が歓迎するNEC本社を訪問し、技術報告会が実施されました。クルーの一員として、日本人で初めて4ヶ月以上に渡り国際宇宙ステーションに長期間滞在し、日本実験棟「きぼう」を完成させた若田宇宙飛行士も参加し、活発な議論が取り交わされました。

STS−127クルー NECに来たる
左からポランスキ船長、矢野NEC社長、若田宇宙飛行士

今回の会社訪問は、1985年以降20年以上にも渡りNECが「きぼう」の開発に参加し、下記のようなシステムや装置を担当したことで、実現したものです。クルーが軌道上で撮影した映像を使ってSTS−127のミッションの概要報告がされた後、実際に機器を運用したクルーと開発を担当したNECの技術者が、今後の「きぼう」の運用や将来の有人宇宙開発に関して意見交換をしました。NECは、「きぼう」において
・管制制御装置(JCP)
・衛星間通信システム(ICS)
・ロボットアーム(JEMRMS)
・運用管制システム(OCS)
・全天X線監視装置(MAXI)
・宇宙環境計測ミッション装置(SEDA−AP)
を担当しました。


赤丸:NEC担当機器


技術報告会においては、若田宇宙飛行士やクルーから、「NECの機器は宇宙の厳しい環境の中で安定的に稼動しており、信頼性の高い機器のお陰でミッション達成ができた」、「テクノロジーとオペレーションの調和が大切」といった意見がありました。我々開発を担当しているものにとって、今後の「きぼう」運用支援に役立てていくことは当然として、議論の最中でありますが「有人宇宙」や「月探査」といったプロジェクトがスタートした場合にも、これらの意見を有効活用出来るようにしていきたいと考えています。

<NECの宇宙事業の歴史>

NECは、1956年東京大学生産技術研究所殿にロケット用テレメトリを納入し、1970年に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」のシステム開発に携わって以来、60以上の人工衛星や、5000台以上のトランスポンダ、300台以上の精地球センサといった多くの人工衛星搭載機器を納入してきました。
そして現在の宇宙事業では、
(1)ロケット搭載機器(誘導制御コンピュータ、通信機器他)
(2)人工衛星(通信、放送衛星、地球観測衛星、科学衛星他)
(3)人工衛星搭載機器(バス機器、観測センサ、トランスポンダ、大型アンテナ)
(4)宇宙ステーション(通信機器、制御コンピュータ、ロボットアーム)
(5)地上システム(追跡・運用管制装置、射場系/射点系設備)
(6)利用システム(リモートセンシング/観測データ処理装置)
の分野で活動しており、これらを統合、又は利用して「宇宙ソリューション」としてご提供することを目指して取り組んでいます。
特に、近年における衛星システムとしては、小惑星探査機「はやぶさ」、陸域観測技術衛星「だいち」、超高速インターネット衛星「きずな」、月周回衛星「かぐや」等のシステムインテグレーションを担当し、またミッション機器としては、「いぶき」の温室効果ガス観測センサー(TANSO)、「きく8号」の大型展開アンテナや、準天頂衛星のミッション機器を含む測位システム全般を、担当しています。

はやぶさイメージ図
はやぶさイメージ図

きずなイメージ図
きずなイメージ図


<宇宙を取り巻く環境の変化>

平成20年5月に「宇宙基本法」が成立し、平成21年6月には、「宇宙基本計画」が策定されました。ご存知のように、この「宇宙基本計画」は、10年先を見据えた5年間における日本の宇宙に関する計画であり、「研究開発主導から高い技術力の上に立った利用ニーズ主導に転換する」という方針が明示されています。宇宙産業にとっては「21世紀の戦略的産業育成」が、基本的な方向性の1つにあがっていることが、非常に心強く思っています。
NECとしても、宇宙を戦略的産業にするという期待に応えられるように、国際競争力の強化、効率的な研究・開発、国際市場に対して積極的な利用提案に取り組んでまいります。

<次世代小型標準バス>

このように国内の宇宙を取り巻く環境が大きく変ろうとしている一方、世界的に見ると通信・放送衛星に加えて、アジア地域を中心とした「宇宙新興国」から、観測衛星に対する需要が拡大しつつあります。
こうした中、NECは約40年にわたり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)殿から科学衛星を中心とした小型衛星開発を担当してきた実績と、数多くのセンサー開発で培ってきた技術に基づき、小型衛星標準バスの製品化を進めています。この小型衛星バスは、経済産業省殿の「ASNARO(仮称)」に採用され、現在衛星開発を進めているところです。
この「ASNARO(仮称)」は、500Kg以下の質量でありながら、50cm未満の観測分解能を実現しようとする極めて野心的なプロジェクトであり、小型でありながら従来の中・大型衛星と同等の性能を有しています。
この小型衛星標準バスは、「NEXTAR」と命名し、低価格、高品質、短納期の衛星を実現し、世界に展開していく予定です。この「NEXTAR」は、新たにJAXA殿が開発した64bit MPUによる汎用衛星搭載コンピュータ(SMU)と、SpaceWire_プロトコルを採用したアーキテクチャーにより、各種機能のソフトウェア化とインターフェースの標準化を図っています。これらの事を実現することで、センサーとしては、光学センサーはもとより、合成開口レーダー(SAR)、ハイパースペクトルセンサー、赤外線センサーといった多様なニーズにフレキシブルに対応する「柔らかい標準バス」を指向しています。
NEXTARの特長は、次のような特長があります。
・多様なニーズに対応できるポインティング、電力供給
・標準化されたオプション
・高い観測精度を実現できるシステム設計

この次世代アーキテクチャーは小型衛星に限定されたものでは無く、静止衛星、中型周回衛星、マイクロ衛星(100kg級)にも適用して、標準衛星バスのラインアップ化を進めていく予定です。

ASNARO(仮称)イメージ図
ASNARO(仮称)イメージ図

小型SAR衛星イメージ図
小型SAR衛星イメージ図


<まとめ>

一昨年のリーマンショック以降、世界的にも厳しい経済情勢が続いていますが、NECとしても「宇宙基本計画」に示されているような方針に基づき、産業化、国際競争力の強化に向けて、取り組みます。
そして、IT・ネットワーク技術を有効に活用することで、宇宙を利用する「宇宙ソリューション」の提案をすることにより利用拡大を図るとともに、衛星分野においては、世界に向かって日本らしさを活かした衛星システムを展開してまいります。