日本衛星ビジネス協会

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ビジネス事例紹介

KDDI株式会社

はじめに

KDDIは、2000年10月に旧DDI、旧KDD、旧IDOの三社合併により誕生し、翌2001年10月には旧auも合併し、固定通信、移動体通信、インターネットの全てのサービスを1社で提供する総合通信会社である。豊富な機能とアプリケーションに牽引された第3世代携帯サービスの躍進あるいは電話・インターネット・TVを提供するトリプル・プレイのサービスを担うオールIP化された光ファイバー網の展開など、モバイルサービスと固定サービスをそれぞれに充実させ、来るべき「ユビキタス・ネットワーク社会」、そして「FMC/固定とモバイルの融合」に向けて環境整備を進めている。

KDDIの衛星通信は、日本の衛星通信の歴史と同時に始まった。1963年11月23日、最初の太平洋横断TV伝送実験においてケネディ大統領暗殺のニュースが伝えられたことは良く知られているが、この映像はKDDI(旧KDD)の茨城衛星通信センターで受信されたものである。

写真:TV伝送実験中の画面
写真:TV伝送実験中の画面

衛星通信の動向
1. 茨城センターの閉局と山口センターへの統合

KDDIでは現在、茨城衛星通信センターの機能を山口衛星通信センターに移管・統合する作業を進めている。これは設備の整備や運用保守体制の一元化による体制の強化、信頼性の向上を主な目的としている。この作業が完了した段階でKDDI茨城衛星通信センターは閉局され、日本の衛星通信の始まり以来の技術の進歩と多くの関係者の熱意に彩られた43年間の歴史に幕を閉じることとなる。

写真:アンテナ数最多の頃のKDDI茨城センター
写真:アンテナ数最多の頃のKDDI茨城センター

日本におけるTV放送(地上波)は昭和28年に始まっているが、その素材を海外から即時に取得できる衛星通信は、上述のとおり、そのちょうど10年後にあたる昭和38年に実験を成功させた。
この間の衛星通信技術は米ソの宇宙開発競争により急速に進展した。昭和32年に史上初の人工衛星スプートニクの打上げ成功で旧ソ連が先手を取るが、ケネディ大統領は、昭和36年の有名な演説において有人月面着陸に加え、通信衛星の開発でも主導権を得ることを強調、以降NASAと空・陸軍を中心に衛星通信の実験が盛んに実施された。そして昭和37年、初の中継器搭載型通信衛星Telstar1号により大西洋横断の通信実験が成功する。
同年、日本はアメリカとの衛星通信の実験に関する取り決めを締結、KDDIの茨城衛星通信センターに直径20mのカセグレン型アンテナを建設し、翌38年11月にリレー1号衛星を介して、カリフォルニア州のモハービー地球局から送信されたTV信号を受信した。この歴史的事象は平成16年11月に、NHKのプロジェクトXでも詳しく紹介された。ちなみにリレー1号衛星は米国の2機目の中継器搭載衛星で、地球を3時間5分で1周する周回(非静止型)衛星である。

「緊急地震速報」衛星配信サービスのイメージ図
写真:旧KDD茨城センター 最初の実験用アンテナ

※下方がTV信号受信用アンテナ。トラッキング用の上方小型アンテナのスレーブとして駆動する。

皮肉にも衛星通信開発の推進力の源であったケネディ大統領の暗殺報道が日本における初の衛星通信のコンテンツとなったが、このことは衛星通信の即時性という特徴を、多くの日本人に対して強烈に印象付ける結果となった。
翌昭和39年、オリンピックとして初めての衛星による実況中継が日本から送信され、衛星通信の有用性が更に広く、世界の多くの人々に認められることとなったものと思われる。なお、この東京オリンピックの映像は、昭和38年7月に米国により打上げられた静止衛星シンコムVを介して伝送された。

昭和39年に、後のインテルサットとなる世界商業衛星通信暫定機構が設立され、旧KDDは政府が指定する通信事業体として同機構の特別協定の署名当事者となった。商用開始は昭和42年1月27日で、同年打上げられたインテルサット2号を用いた。以来平成17年のインテルサット民営化までの41年間、KDDIはインテルサットの署名当事者或いは株主として、日本におけるインテルサット衛星回線の運用を担い続けた。現在も通信サービスの媒体として、また地球局運用者として、インテルサット衛星回線の利用を続けており、茨城衛星通信センター閉局後は山口衛星通信センターが、国内最大の国際衛星通信センターとして太平洋上およびインド洋上の衛星へのアクセスを提供することになる。

写真:KDDI山口衛星通信センター
写真:KDDI山口衛星通信センター

光海底ケーブルでは接続できない対地との間はもちろん、その他の対地との間のダイバーシティールートとして、国際電話、国際専用線などのデータ系サービス、或いはインターネット接続サービスの提供に衛星回線は活用されており、KDDIは、今後も世界の国と地域を結ぶ国際通信ネットワークの媒体として衛星を利用していく。

2. 移動体通信
(1)インマルサットBGANサービス

KDDIは、もう一つの国際衛星システムであるインマルサットにおいても、1979年の運用開始から署名当事者として日本における運用およびサービス提供を担ってきている。
インマルサットは2005年3月および11月に第4世代衛星の打ち上げを成功させ(計2機)、同年12月、小型可搬型端末で最大432kbpsのデータ通信と電話サービスを提供するBGANサービスを開始、KDDIはその販売を開始した。第4世代衛星は現行の第3世代衛星と比べ発生電力で4倍、サービスリンクEIRPで1.4倍の能力を有し、小型移動局による通信を可能としている。
また、帯域幅は現行衛星の5倍、正旋・逆旋の両偏波利用による帯域の更なる拡大、加えて、極めて細分化された200のスポットビーム(「ナロースポットビーム」)の設定による周波数の並行利用(理想的には約30回程度)を可能とし、実質容量は100倍程度拡大したとしている。これによりブロードバンドサービスの提供を可能とすると同時に、処理可能な小型移動局の端末数を大幅に増加させた。

インマルサットBGANサービス 挿入写真

なおこの第4世代衛星は太陽電池パネルを広げたときの全長が48mもあり、「サッカーのピッチの横幅」ほどのサイズであり、ペイロード部分は英国の2階建てバスに相当する世界最大級の通信衛星である。

写真: インマルサット第4世代衛星(組立中)
写真: インマルサット第4世代衛星(組立中)

現在は陸上での利用のみが想定されているが、BGAN対応の航空機地球局設備が開発されており、これを航空機に搭載することによりSwiftBroadbandサービスが提供開始予定であり、またインマルサットのこれまでの主要市場である船舶向けとしてFleetBroadbandサービスが計画され、BGAN対応の船舶地球局が開発中である。
BGANの展開は、海、空或いはネットワークインフラ未整備の地上でのブロードバンド利用を可能とするものであり、通信サービスを利用する各種ビジネスや人々の暮らしに大きな変革と進歩を与えうるものとして期待される。

(2) 災害対応 ――― 車載型携帯基地局

2006年、KDDIは、重大災害時の基地局損傷対策として車載型携帯基地局を全国に配備する。これは、携帯電話の基地局および衛星通信用アンテナを搭載する車載局で、基地局からau基幹網へのアクセスが損傷、回線断となった場合であっても、この車載局に設置されるアンテナおよび宇宙通信(株)のスーパーバード衛星により設置される衛星回線を通じて、衛星視野が確保できる場所であれば日本中どこからでもau基幹網にアクセスすることを可能とする、すなわちauの通信を可能とする設備である。

車載型携帯基地局

(3) GPS携帯

KDDIが提供する携帯電話auでは、2001年12月から複数機種にGPS機能を搭載し、位置情報提供サービスを提供している。2006年2月現在、約1,720万台の携帯電話に測位機能が搭載されている。