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世界の衛星通信業界の動向

世界の衛星通信業界の最新動向

衛星システム総研 神谷直亮

2007年の顕著な動向としてまずあげられるのは、今まであまり注目されていなかった中近東やアフリカの衛星通信事業者が脚光を浴びるようになったことである。同じようなことが周波数利用についても言える。今まであまり使われてこなかったKaバンドを搭載した衛星が増えた。

今年、中近東が脚光を浴びるようになったのは、Al Yah衛星通信会社(以下ヤーサット)とアラブサット社が大型衛星の発注に踏み切ったからである。アラブ首長国連邦のヤーサット社は、8月8日にヤーサット1Aと1B衛星を発注した。14本のCバンド、20本のKuバンド、21本のKaバンド中継器を搭載するこの大型衛星を受注したのは、フランスのアストリウム・サテライト社である。サウジアラビアに本社を構えるアラブサット社は、これより先の6月にアラブサット5Aと5B(別名Badr-5)を、同じくアストリウム・サテライト社にオーダーしている。アラブサット5Aは、16本のCバンドと32本のKuバンド中継器を搭載した衛星である。一方の5Bは、衛星放送に使用する50本のKuバンドと4本のKaバンド中継器を搭載する。3番手として浮上したのが、イスラエルのスペースコム社である。同社は、7月に、AMOS-4衛星をイスラエル・エアクラフト・インダストリー社に発注した。24本のKuバンドと4本のKaバンド中継器を搭載する、やや小ぶりの衛星であるが、Kaバンドを載せたという点が注目の的になった。上述の3社の他に、アラブ首長国連邦のスラヤ・サテライト社が今年10月から11月にかけてスラヤ3衛星を東経98.5度に打ち上げ、中国や東南アジアに進出すると発表した。また、トルコのタークサット社がタークサット3A衛星をタレス・アレニア・スペースに発注している。

中近東に比べれば、まだ注目度は低いが、アフリカでも衛星通信・衛星放送が広まってきたといえる。まず、中国に製作と打ち上げを依頼したナイジコムサット1衛星が、今年5月に成功裏に打ち上げられた。ナイジェリアのアブジャに本社を構えるナイジコムサット社が所有するこの衛星には、C、Ku、Ka、Lの4種のペイロードが搭載されており、すでに東経42.5度で運用サービスが行われている。次いで、RascomStar-QAFが1999年にタレス・アレニア・スペース(TAS)と契約した ラスコム1衛星の打ち上げに目処がついた。TAS社の保管庫で長い間眠っていたラスコム1衛星を復活させたのは、アフリカ開発銀行で、5千万ドルのファイナンスを行なう。この結果、来年初めには東経2.85度に打ち上げられる予定である。すでに運用暦の長いエジプトのナイルサットも交えて、アフリカにも3社による衛星通信・衛星放送体制が整うことになった。

中近東、アフリカ以外で話題をさらったのは中国である。中国は、6月1日に自国製のシノサット3衛星を東経125度に打ち上げた。続いて7月5日に、チャイナサット6Bの打ち上げに成功し、いち早く東経115.5度で運用サービスを開始した。これら2機の衛星には、Anti-Jammingと呼ばれる中継器乗っ取り防止策がとられているのが特色で、投入が完了した7月末のタイミングで、中国政府は、大胆な新方針を打ち出した。従来、アジアサット3Sと4衛星、アップスター2Rと6衛星のCバンド中継器で配信されていた中国のCCTVや地方のテレビ番組を、上述の2機の衛星に移行させたのである。この背景については、9月にバンコックで開催された「アジア・パシフィック衛星通信会議(APSCC2007)」で、色々と取りざたされた。法輪功のような団体に、中国共産党大会や北京オリンピックの中継が乗っ取られるのを危惧したという分かり易いコメントから、将来アジアサットとAPTサテライトを統合するための布石と深読みする専門家もいた。

今年は、Kaバンド中継器を搭載した衛星が一気に拡大した年と言ってよい。4月10日にアニックF3、5月4日に アストラ1L、5月14日にNigComSat-1が打ち上げられた。これらの衛星には、それぞれ2本、2本、8本のKaバンド中継器が搭載されている。本数からみてこれら3機は、トライアルのように受け取られても仕方がないが、この後に、本格的な衛星が2機投入された。7月7日に打ち上げられたDirecTV-10と、8月14日に投入されたSpaceway-3である。前者は、87本のKaバンド中継器を搭載した重量5.9トン、総発生電力14.3KWの大型衛星で、後者もこれに劣らず、中継器数72本、重量6.1トン、総発生電力8.6KWの大型衛星に仕上がっている。一方、現在製作中の衛星としては、シリウス4 (Kaバンド中継器数2本)、ICO G1(2)、DirecTV-11(87)、ヤーサット1A(21)、同1B(21)、AMOS-3(3)、AMOS-4(4)、アラブサット5B(4)、Hylas-1 (6)などがあげられる。

経営面では、昨年と同様に投資ファンドによる活発な活動が続いた。最も意外だったのは、イギリスの投資ファンドとして知られるBCパートナーズが、インテルサットの76%オーナーとして名乗りをあげた。6月19日に発表された内容によれば、取引額は50億ドルとのことである。残りの24%は、ゼウス・ホールデイングズが引き続き所有するという。2件目としてあげられるのは、エイペックス・パートナーズによるノルウエーのテレノール・サテライト・サービス社の買収である。昨年10月からペンデイングとなっていたこの案件は、8月に欧州委員会の許可がおりた。買収額は、4億ドルとのことである。エイペックス・パートナーズは、インマルサット、フランス・テレコム・サテライト・コミュニケーションズ、インテルサットにも投資している。3件目は、ユーテルサット社の32%株主として知られるスペインのアベルテイス社が、8月にイスパサット社の46.6%を買収する計画を発表し、既存の大手株主がこれに応じるかどうか注目の的になっている。

また、合併や提携もホットな話題を提供した。XMとシリウス・サテライト・ラジオ、テレサット・カナダとロラール・スカイネットという2件の合併案件が、1年間にわたりホットな話題を提供した。前者はペンデイングのまま年を越しそうであるが、後者は、9月にカナダ政府が、10月にアメリカのFCC(連邦通信委員会)が許可を下ろし、11月初めにに合併が実現した。存続会社名は、テレサットである。一方では、スケールは小さいが、提携話もいくつか進展した。代表的な例としては、10月8日にインテルサットとテレノール・サテライト・サービスが取り交わした合意があげられる。この内容によれば、インテルサットは、2009年の第二四半期に打ち上げが予定されているトール6衛星(西経1度)のKuバンド中継器を10本区分所有する。同じような提携関係の強化は、5月にインテルサットと日本のJSAT間でも成立した。ホライゾン1、2に続く第3弾として、JSATは、インテルサットとインド洋上のインテルサット15衛星のKuバンド中継器(寿命期間5本)の契約を締結している。オービタル・サイエンス社が製作するこの衛星の打ち上げは、2009年の予定である。さらにVSAT業界の専門家によれば、アメリカのヒューズ・ネットワーク・システムズ社によるイスラエルのギラット社の合併工作が進んでいる。競合相手として、お互いにしのぎを削ってきたこの両社の合併がどのような結末となるのか興味深い。

アプリケーションの面では、コネクション・バイ・ボーイングの挫折で低調に推移するかと思われた移動体通信・移動体放送ビジネスが、逆にやや過熱するという年になった。最も喜ばしいニュースは、インマルサット社がインマルサット4 F-3衛星を、来年の第2四半期に太平洋上に打ち上げると発表した。これで3機体制が整うことになり、名実ともにB-GANサービスの普及を促すのは間違いない。衛星・地上ハイブリッド移動体通信も本格化の兆しが見られるようになった。特に、テラスター・グローバル社がアストリウム・サテライト社に対し、テラスター3衛星の暫定発注に踏み切り、アメリカのみならずヨーロッパも含めたグローバルな体制を構築しようとしている。衛星モバイルTVサービスに関しても、ヨーロッパでソラリス社が設立され、2009年初めに打ち上げ予定のW2A衛星で運用サービスを行う体制が整った。アジアでは、中国がCMBStarに、インドがインサット4EにSバンド中継器を搭載して、同様のサービスを目論んでいる。