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世界の衛星通信業界の動向

世界の衛星通信業界の最新動向

衛星システム総研 神谷直亮

世界の衛星通信・衛星放送業界に、今年は4つの顕著な変化が見られた。
まず、衛星モバイルラジオの分野では、7月24日にアメリカのXMサテライト・ラジオとシリウス・サテライト・ラジオの合併が許可された。両社による合併の方針が打ち出されたのが2007年2月であったので、約1年半を費やして実現にこぎつけたということになる。両衛星放送システムを利用してラジオを聴取している加入者は、約1800万と言われており、今後さらにどのようにして加入者増を狙うのか、新会社として発足したシリウスXMラジオの新しい戦略が注目される。また、合併の許可を待たずにXMはXM-5衛星、シリウスはシリウス5、同6衛星の製作に踏み切っており、システム面でこれらの衛星や対応する受信機をどのように統合していくのか、まだ難しい課題を抱えていると言ってよい。
一方の欧州では、スペインを拠点にするオンダス・メデイアが、8月にアメリカのロラール社と3機の周回放送衛星の初期設計契約を取り交わして業界を驚かせた。打ち上げは、2011年に始まる予定である。米欧以外のマーケットを見ると、10月17日にワールドスペースが、米破産法第11条に基づき会社再建の申請をするという予想外の事態が発生した。ワールドスペースは、アフリスターで1999年からアフリカ諸国向けに、アジアスターで2000年からアジア諸国向けに衛星デジタルラジオ放送を行って、情報格差の解消に貢献しようと努力してきたが、ついに資金繰りがつかなくなったと思われる。どのような形で救済されるのか、来年度の大きな課題が残った。
今年になって衛星モバイルテレビ業界でも予想を超えた変化が見られた。4月には、中国のSARFT(ラジオフィルムテレビ総局)と組んでモバイルテレビ放送を推進してきた米エコスター社系のCMBSatが撤退を決め込んでいる。同社のCMBStar衛星は、現在ロラール社の工場に保管されており、その去就が注目される。さらに7月29日に日本のモバイル放送が、「来年の3月末で放送サービスを打ち切る」との発表を行った。同社は、東芝の主導で1998年に設立され、2004年10月からMBSAT-1衛星で放送サービスを提供してきた。「モバHO!」の愛称で親しまれたモバイルテレビの加入者は、約10万に達していると言われているが、ビジネスプラン上の目標値から大きくかけ離れているのが事業清算の理由と考えられる。一方、欧州では、アイルランドのダブリンに本社を構えるソラリス・モバイルと、英国ロンドンのインマルサットが衛星モバイルテレビ放送の免許取得を目指して競っている。ソラリスはW2A衛星、インマルサットはヨーロッパサットを使用する計画である。これら2社に加えて、米国のICOグローバルとテラスターの両社も欧州市場に進出する構えを崩していない。

次いで、Kaバンド衛星がホットな話題を提供した。6月にデイレクTV-11衛星が打ち上げられ、アメリカで稼動しているKaバンド衛星は、全部で6機になった。デイレクTV-11以外に運用されているのは、ワイルドブルー1、デイレクTV-10、スペースウエイ1、同2、同3である。2機のデイレクTV衛星には、それぞれ87台のKaバンド中継器が搭載されており、スペースウエイ3衛星には72台搭載されている。また、現在製作中の大型Kaバンド衛星としては、ユーテルサットのKaSatとバイアサット・サテライト・ベンチャーのViaSat-1衛星があげられる。前者は、フランスのアストリウム、後者はアメリカのロラールが製作を請け負っている。これら2機の衛星には、それぞれ56台のKaバンド中継器が搭載される予定である。さらに今年に入って、O3bネットワークスが注目を浴びた。同社は、16機のKaバンド衛星を、赤道上空8068kmの周回軌道に打ち上げる計画で、フランスのタレス・アレニア・スペースに衛星の製作を依頼した。このO3b衛星は、グローバルスター衛星に類似した小型衛星で、1機の重量は約800kgという。打ち上げは2010年に予定されており、シー・ローンチ・ロケットが使用される。アプリケーションについては、「赤道の南北45度以内の地域に住むブロードバンド・サービスの恩恵を受けていない30億人(Other 3 billion)を対象に、インターネット通信、3GやWiMAXのバックホール・サービスなどを提供し、デジタルデバイドの解消に貢献する」との発表がなされている。
さらに、統合や提携が注目を集めた。よく知られている通り、10月1日に宇宙通信は、JSAT、スカイパーフェクト・コミュニケーションズと統合され、スカパーJSATが誕生した。これにより8月15日に打ち上げられたスーパーバード7号衛星は、10月17日にこの新会社に引渡された。
アジアではこの他に、プロトスターとフィリピンのマブハイ・サテライトとの提携が話題になった。プロトスターは、これより以前にシンガポールのシングテル、インドネシアのインドビジョンとの提携を発表しており、3カ国を巻きこんだことになる。
一方、不気味な動きを見せたのがChina DBSat(中国直播衛星有限公司)である。同社は、今年6月に程応仁会長を香港のAPTサテライト社の社長として転出させている。業界では、この両社の統合は時間の問題と見ており、アジアにChina DBSatと前述したスカパーJSATによる2強の時代が訪れるとの見方をする専門家が増えている。なお、中国で唯一の衛星運用サービス事業者となったChina DBSatは、現在チャイナスター1、シノサット1と同3、チャイナサット6Bと同9の5機の衛星を運用している。これに加えて、Kuバンド中継器を22台塔載したシノサット4(別名シノサット2R)を2009年に、Cバンド30台とKuバンド16台を載せる同5(別名シノサット1R)を2011年に打ち上げるという。さらにシノサット6とチャイナスター2の両衛星を開発中との情報もある。

最後の4つ目は、アジアの衛星通信・衛星放送業界が、今年世界で最も脚光を浴びた。第一の理由は、打ち上げラッシュが続いたからである。今年に入ってから現在までに投入された5機の衛星名、打ち上げ月、静止軌道は下記の通りである。
スラヤ3 1月 東経98.5度
ビナサット1 4月 東経132度
チャイナサット9 6月 東経92.2度
プロトスター1 7月 東経98.5度
スーパーバード7 8月 東経144度
上述した衛星の他に、マレーシアのミアサット3a(1R)衛星が、8月にランド・ローンチのZenith-3SLBロケットで東経91.5度に打ち上げられる予定であったが、バイコヌール射場でアンテナに損傷事故が発生し、来年まで延期された。
第二の理由として挙げられるのは、インドにおけるDTHブームである。同国では、デイッシュTV、タタ・スカイ、DDデイレクト・プラス、サン・デイレクト、ビッグTVの5つのDTHプラットフォームがすでに稼動している。9月に開催された「2008年アジアパシフィック衛星通信会議」に出席した関係者によれば、さらにバーテイ・エアテルとビデオコムの2社が新規プラットフォーム計画を推進しているという。加入者数については、無料放送サービスのDDデイレクト・プラスが約460万、有料サービスを提供しているデイッシュTV、タタ・スカイ、サン・デイレクトを合わせて約360万とのことであった。ビッグTVは、8月19日に放送を開始したばかりで、まだ加入者の発表がない。
上述したようなアジアの動向を注視しながら、世界のビッグ4オペレーターが、今年に入ってアジア市場への進出戦術を練り直している。まず、インテルサットは、インテルサット15を東経85度、インテルサット17を東経66度、インテルサット18を東経180度に打ち上げる決定を下した。SESグローバルの子会社のSESニュースカイズは、NSS-9衛星を東経183度に、NSS-12を東経57度に投入し、太平洋上とインド洋上の両サイドからアジア・マーケットへ進出する突破口を開こうと目論んでいる。特に注目されるのはNSS-12で、この衛星は、Cバンド中継器を40台、Kuバンド中継器を48台搭載する超大型衛星である。 (神谷直亮)