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世界の衛星通信業界の動向

世界の衛星通信・衛星放送業界の現状と2011年の動向

2010年の衛星通信業界で最も注目を集めたのは、世界的なGPS競争の始まりである。日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が9月11日に準天頂衛星「みちびき」を打ち上げた。まだ、1機のみの実証実験的なレベルにとどまっているが、意義深い第1歩といえる。世界的には、中国とロシアの動きが目立った。中国は、2010年1月17日に同国独自の「COMPAS」システムを構成する3機目の北斗衛星を長征3Cロケットで打ち上げた。引き続いて6月4日に4機目、7月31日に5機目、10月 31日に6機目、12月18日に7機目を矢継ぎ早に投入している。計画では、2012年までにあと7機を打ち上げるという。システムの全貌は、明らかではないが、最終的には中軌道周回衛星27機、静止衛星5機、北極をカバーする傾斜角運用静止衛星3機で構成する真のグローバルGPSシステムの実現を目指しているといわれている。ロシアは、既存の「GLONASS」システムを構成する24機の衛星の更新に乗り出し、9月2日に3機の次世代Glonass-M衛星の打ち上げに成功した。しかし、12月5日に実施した追加の3機の打ち上げは、ロケットの不具合で失敗に終わった。ヨーロッパは、「ガリレオ」プロジェクトを推進中で、現在2機の衛星による実証実験を行っている。最終的には、30機(3軌道面、各10機)のシステムを完成させる計画である。インドは、2011年中に1機の実験機を打ち上げ、最終的に7機の「IRNSS」システムを構築する。

「G空間EXPO2010」で展示された「みちびき」のモデル
JAXAは2010年9月に「みちびき(準天頂衛星)」を打ち上げた。写真は「G空間EXPO2010」で展示された「みちびき」のモデル

次いで、本格的なKaバンド衛星時代の到来を告げる1年になった。2010年には、すでに稼働中のワイルドブルー1に加えて、11月にはHylas-1衛星が投入され、12月27日にはKaSatが打ち上げられた。Avanti社のHylas-1衛星には、8台のKaバンドと2台のKuバンド中継器が搭載されており、東経33.5度で運用される。同社は、さらにHylas-2衛星を製作中である。KaSat衛星は、伝送容量70Gbpsを誇るフランスのユーテルサット社の衛星で、用途としては高速インターネット・サービスとヨーロッパの中小テレビ局によるローカル・トウ・ローカルのデジタルテレビ放送が計画されている。さらに、2011年初めから2012年にかけて、バイアサット1、ジュピター、アラブ首長国連邦のYahsat-1Bがこれに続く。一方では、ジャージー島のセイント・ジョンに本社を構えるO3bネットワークス社がKaバンド周回衛星をプロモートしている。すでに8機の衛星を発注して、赤道を挟んだ南北45度に居住する3億人に80Gbpsのブロードバンド環境を提供すると息巻いている。地上のゲートウエイ設備については、ギリシャのヨーロッパ・メデイア・ポートを本拠にするという。このような潮流に乗った2010年のホット・ニュースとしては、インマルサットが8月6日発表したKaバンド衛星3機の契約があげられる。「グローバル・エクスプレス」と名付けられたこれらの衛星の発注先はアメリカのボーイング社で、総額12億ドルの契約と言われている。打ち上げは、2013年末から始まる予定である。

アメリカ、ヨーロッパ、中近東では、Kaバンド衛星の新しい時代を迎えつつある。
アメリカ、ヨーロッパ、中近東では、Kaバンド衛星の新しい時代を迎えつつある。

衛星放送の分野では、3D放送の開始が話題をさらった。2010年1月に韓国のスカイライフが、コリアサット5衛星を使って「Sky3Dチャンネル」の放送サービスを開始し、6月19日からスカパー!もこれに続いた。スカイライフの番組は、9月に東京で開催された「コンテンツEXPO2010」で視聴する機会に恵まれた。紹介されたコンテンツは、ビーチバレー、キックボクシング、クラシックコンサートなどが主流で、韓国特有の番組はテコンドーとロープ上で踊ってみせる伝統的な曲芸の2本立てであった。スカパー!は、6月に「スカチャン3D169」を開局し、南アフリカで開催された「2010 FIFAワールドカップ」を放送した。その後も、「“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8耐ロードレース第33回大会3Dスペシャル」、「倖田来未ライブ3D生中継」、「祭り3D! YOSAKOIソーラン祭り」、「2010 J1 3D生中継」などの番組を提供している。一方、細々とではあるが2007年12月から3D放送を継続している日本BS放送(BS11)は、5月に「3社祭りの3D生放送」を実施してパイオニアーとしての意地をみせた。さらに、12月12日に「親子ザトウクジラを守る入り江」を放送した。パナソニックの3Dカメラを使用して、タヒチのルルツ島で撮影した1時間番組である。アメリカでは、4月からESPNが3D番組の提供を開始し、DirecTVも6月から3D専門チャンネル「n3D」を立ち上げている。2011年には、デイスカバリー・コミュニケーションズ、ソニー、IMAXの合弁企業が、3D専用チャンネルを始める予定である。

2010年1月から3D放送を開始した韓国のスカイライフは「デジタルコンテンツEXPO2010」で番組内容を紹介した。
2010年1月から3D放送を開始した韓国のスカイライフは「デジタルコンテンツEXPO2010」で番組内容を紹介した。

東京ゲームショウ「ファミリーコーナー」
東京ゲームショウ「ファミリーコーナー」における、スカパー3D体験ゾーン。スカパー!HDの3D専門チャンネルである「スカチャン3D169」では、サッカーや音楽ライブ、格闘技、映画など、多様なコンテンツを放映している。 東京ゲームショウ「ファミリーコーナー」における、スカパー3D体験ゾーン。スカパー!HDの3D専門チャンネルである「スカチャン3D169」では、サッカーや音楽ライブ、格闘技、映画など、多様なコンテンツを放映している。

衛星通信分野のアプリケーションとしては、アメリカのAncillary Terrestrial Component (ATC)に耳目が集まった。理由の1つは、テラスター・ネットワークスとAT&Tが、9月21日から衛星と3Gのデュアルモード・サービスを開始したからである。サービスに使われているのは2009年7月に打ち上げられたテラスター1衛星で、モバイル端末はテラスター・ジーナス(TerreStar Genus)と呼ばれている。端末の販売価格は799ドル、衛星を使用する場合の契約料は月額25ドル、通話料は1分65セントで設定されたという。ところが10月19日になってテラスター・ネットワークスが、突然チャプター11(米連邦破産法11条)の申請を行って業界を混乱に巻き込んでしまった。注目を集めたもう1つの理由は、競争相手のライトスクエアド(LightSquared)のスカイテラ1号衛星が11月14日にプロトン・ロケットで打ち上げられた。当初22メートルの大型アンテナが完全に展開しない不運に遭遇したが、本稿執筆時点では、なんとか修復できたと報じられている。サービス開始は、2011年中ごろになると思われる。ヨーロッパではCGC (Complementary Ground Component)の開発、日本ではSTICS (Satellite Terrestrial Interactive Communications System) の検討が進められており、2011年にどのような展開を見せるのか注目の的になっている。

衛星打ち上げサービス業界にも大きな変化があった。まず、シーローンチ社が打ち上げサービスを再開できる見通しとなった。ロシアのRSCエネルギアが救世主して名乗りを上げ、ボーイングに代わって95%の株主になることで合意に達した。9月9日には、アメリカ政府の認可がおり、翌10日に正式な発表がなされた。RSCエネルギアは、ゼニット3SLの上段ロケットを供給しているメーカーである。現時点では、2011年にインテルサット-18を打ち上げ、2012年に4回、2013年に5回の打ち上げを目指すといわれている。シーローンチの最後の打ち上げは、2009年9月であったので、約2年ぶりのカムバックとなる。さらに心強いニュースとしては、6月4日にスペースXがファルコン9ロケットの初打ち上げを成功裏に行い、12月8日に実施した第2回目の打ち上げにも成功している。これを受けてアメリカ政府は、シャトルが退役した後、国際宇宙ステーションへの物資の輸送にファルコン9を使うことを確約し、イリジウム・コミュニケーションズが、6月に4億9200万ドルの契約締結に踏み切った。イリジウム・ネクスト衛星の打ち上げは、2015年から2017年にかけて行われる。これらに加えてオーブコムが、同社の第2世代の衛星18機をファルコン1又はファルコン9ロケットで打ち上げることになった。

最後に、2010年は中国の活発な動きが非常に目立つ1年であった。通信・放送衛星は、チャイナサット6A(別名、シノサット-6)とチャイナスター20Aの2機にとどまったが、この他に上述した5機のGPS衛星、気象衛星(Fengyun-3B)、観測衛星(Yaogan-10、Tianhui-1)、月探査衛星(Chang’e-2)、科学衛星(Shijian-12)など多くの衛星を打ち上げている。9月5日に打ち上げられ東経125度に静止しているチャイナサット6A衛星は、最新のDFH-4プラットフォームをベースにして、24本のCバンド、8本の Kuバンド、1本の Sバンド中継器を搭載している。一方、衛星打ち上げサービス会社の中国長城工業公司(CGWIC)は、2011年にユーテルサットW3C、Paksat-2、Nigcomsat-1Rの3機の衛星を打ち上げる予定である。11月に開催された「エアショー・チャイナ2010」でCGWICは、「年間10機の打ち上げを目指す」と宣言している。2011年も中国の動向から目が離せない1年になる。

神谷直亮(Naoakira Kamiya)
衛星システム総研 代表