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世界の衛星通信業界の動向

2017年における世界の衛星通信・衛星放送業界の動向

神谷直亮(Naoakira Kamiya)
衛星システム総研 代表
日本衛星ビジネス協会 理事
アジアパシフィック衛星通信協会 前副会長

筆者 近影
筆者 近影

2017年は、3月に「Satellite 2017」、4月に「2017 NAB Show」、6月に「Satellite Industry Forum2017」と「CommunicAsia / BroadcastAsia2017」、10月に「APSCC2017」、11月に「InterBEE2017」に参加した。主にこれらのコンベンションで得た知見を基に、衛星通信・衛星放送業界の動向をまとめてみたい。

ワシントンで開催された「Satellite 2017」で話題にのぼったのは、OneWeb社の低軌道周回衛星(LEO)モデルとKymeta社の平面アンテナだ。
OneWeb衛星のモデルが飾られていたのは、エアバス・デフェンス&スペース社のブースである。目立った特色は、東西それぞれ8列に並んだサービスリンク用のホーンアンテナで、地球上に隈なく散在する予定の受信端末を高度1,200kmの低軌道から16本の3日月型ビームで走査する設計になっていた。打ち上げスケジュールについては、実証試験用の10機の衛星をエアバスで製造して2018年3月に打ち上げ、実用衛星はOneWeb社独自の米フロリダ工場で製造して2019年から投入を開始するとのことであった。衛星の総数に関しては、「とりあえず648機のコンステレーションで運用し、最終的には720機に増やす計画」と語っていた。
OneWeb以外に同コンベンションで浮上したLEO衛星計画は、テレサット・カナダの「Leo Vantage」と衛星間光通信を目論む「LeoSat」だ。
Kaバンドを使用する「Leo Vantage」プロジェクトについては、ダニエル・ゴールドバーグCEOが直々に「SS/Loral(SSL)とSurrey Satellite Technology(SSTL)でそれぞれ1機のパイロット衛星を製造中。GEOとLEOのハイブリッドシステムはテレサットの既定路線」と強調した。その後11月にSSTLで製造された「LEO2」衛星が打ち上げられたが、ソユーズロケットの不具合で投入に失敗してしまった。SSLで製造中の「LEO1」衛星は、2018年春に打ち上げられる予定である。
「LeoSat」プロジェクトを推進するLeoSat Enterprise社のマーク・リゴールCEOは、「LEO & MEOサービスの新しい展開」のセッションに出席して「低遅延で高度なセキュリテイを重視する企業向けのプレミアムLEOネットワークを構築する」と述べLEO衛星間を光で接続する高速通信構想を発表した。その後まもなく、スカパーJSATがLeoSat Enterpriseに出資を決めたのは周知の通りである。

Kymeta社(本社、米ワシントン州レドモンド)の平面アンテナ(直径70cm、寸法L82.3 cm x W82.3cm x D7.1cm)は、同社独自のブースとインテルサットのブースの2カ所で紹介されていた。インテルサット、スカパーJSAT、トヨタなどが戦略的提携と出資を行って、移動体との双方向通信に利活用しようと最も期待を寄せている製品である。
話は飛ぶが、スカパーJSATは、このアンテナをトヨタのランドクルーザーの車上に搭載して「InterBEE2017」で初公開した。担当の技術者によれば、「ソフトウェアを制御するメタマテリアルを用いたエレクトロニックスビームフォーミングを駆使するユニークな衛星通信アンテナ」とのことであった。車内には、富士通のコーデック「IP900D」、Gilat社のモデム「GLT1000」、新日本無線のアンプなどが設置されており、JCSAT-5A衛星とこれらの機器を使って移動しながら通信実験を行ったという。伝送速度を聞いて見たら「送信パワー16Wでアップリンクし、上り約3Mbps、下り約6Mbpsを達成した」との回答であった。ブースでは、10月に東京・東陽町近辺を時速60kmで実際に移動しながらGoProカメラで撮影したという録画映像をパソコンで見せていた。横浜衛星管制センターでJCSAT-5A衛星から受信して、インターネットでストリームした映像とのことであった。

上述した2案件以外で、2017年に注目を集めたのは、High Throughput Satellite (HTS)とIn-Flight-Connectivity (IFC)だ。
「HTS」システムに関しては、3月の「Satellite 2017」から10月の「APSCC2017」まで、どの国際コンベンションでも取り上げられてきたが、いずれの場でも話題の中心は、バイアサット社であった。この背景には、同社がバイアサット1衛星で150Gbpsを、バイアサット2衛星で300Gbpsという大容量、超高速ブロードバンド通信を実現した実績があるからである。さらに、バイアサット社は、1Tbpsという前代未聞のウルトラHTSにチャレンジしている。この「超大容量テラビット衛星の時代」が到来すると、ビット当たりの価格が下がり、衛星通信業界に地殻変動が起こる可能性が大である。
バイアサット以外では、ヒューズ・ネットワーク・システムズのジュピター3、インテルサットのEPICシリーズ、SESのSES-12/14なども注目に値する。

「IFC」については、「APSCC2017」での討論会が注目を集めた。アジアパシフィック地域で航行中の旅客機に地上並みのインターネットサービスを提供しようと目論むパナソニック・アビオニクス、グローバル・イーグル・エンターテインメント(GEE)、GoGoの3社が揃ったからである。
カリフォルニア州レイクフォレストに本社を構えるパナソニック・アビオニクスは、この業界で35年の歴史を誇り、ユナイテッド、日本航空、全日空などを顧客にしている。同社を代表して討論会に出席したデビッド・ブルーナー副社長は、「現時点で、業界シェア35%を達成しているが、まだまだ成長する分野なので気を緩めないで頑張っている。アジアは、国により規制環境が違うので苦労の連続と言って良い。特に中国が難関である」と述べ、司会者に低軌道周回衛星のインパクトを聞かれたのに対しては、「遅延が少ないのと旅客機に搭載するアンテナの小型化が図れるのが魅力である。また、北極をカバーできるので、インパクトは非常に大きいと考えている」と答えていた。
ロサンゼルスを本拠にしているGEE社のローレン・フィリップ副社長は、「映画、テレビ番組、音楽などを旅客機に提供するIFEC(In-Flight Entertainment & Communications)というビジネスモデルを確立し、アメリカン、エアフランス、シンガポール航空などにサービスを提供している。中国を含めアジアでは、まだ乗客の視聴率が低いのが悩みだが、これから着実に伸びると信じている」と語った。
シカゴに本社を置くGoGo社のパトリック・キャロル副社長は、「旅客機のみでは採算が取れないので、大型客船も対象にして総合的なサービスを提供している」と秘策を披露し、「現在、デルタ航空が最大の顧客であるが、日本航空のほとんどの国内線でもサービスを開始している。技術的な特色は、2Kコネクティビテイで、この技術を使って他社との差別化を図っていく」と意気込んでいた。

衛星打ち上げサービス業界でも新しい動きが見られた。「Satellite 2017」では、ブルー・オリジンのジェフ・ベゾス創設者が特別ゲストとして招待され、同社が鋭意開発を行っている「ニューシェパード」と「ニューグレン」ロケットの紹介が行われた。第2世代の「ニューグレン」ロケットの打ち上げは、2020年の予定とのことであった。一方、「APSCC2017」の基調講演には、バージン・オービット社のステファン・アイゼル副社長が登壇し、「ボーング社の747-400改良型ジャンボ機にローンチャーワン(LauncherOne)と呼ぶバージン・オービット製ロケットを搭載して飛行し、高度35,000フィートの空中で射出するシステムを開発中である。ローンチャーワンは、ニュートン3とニュートン4エンジンを組み込んだ2段式ロケットになる。初号機の打ち上げは、2018年7月に予定している。投入可能な衛星は、これから大きな需要が見込める小型衛星で、最大質量は300kg」と語った。
既述の2社の他に、最新鋭大型ロケットに関しては、日本の三菱重工業がH-3を、フランスのアリアンスペースがアリアン6を、中国の長城工業公司が長征5ロケットを取り上げてPR合戦を展開した。

「2017 NAB Show」と「CommunicAsia/BroadcastAsia 2017」で注目を集めたのは、4K Ultra HD衛星放送である。特に、「CommunicAsia 2017」で印象に残ったのは、ミアサット、アジアサット、KTサットのブースであった。
マレーシアのミアサット社は、Travelxp社 が制作した4Kと4K+(Hybrid Log-Gamma方式のウルトラHD HDR) 映像の比較デモを行って専門家の注目の的になった。同社は、この他、ミアサット3a衛星で実際に配信中の4K番組を3本披露していた。
香港のアジアサット社は、同社のアジアサット4衛星のCバンド中継器でアジア広域に配信している「4K-SAT」番組のPRに余念がなかった。目玉は、「ファッションTV 4K」であったが、合間に2018年平昌冬季オリンピックを視野に入れた韓国のスキー場での滑降映像も流していた。
韓国のKTサットは、KTスカイライフと共同でブースを構え、「Sky UHD」「SBS Plus UHD」「UXN」「Asia UHD」「UHD Dream」と名付けた5チャンネルの4K Ultra HD番組を再生して見せ、アジアのリーダーとしての存在感を露わにしていた。ブースの担当者は、「これらは、現在、KTスカイライフが実際に衛星放送サービスを行っている番組のハイライト」と語っていた。加入者について聞いてみたら「すでに59万加入を達成している」との回答であった。

最後に、衛星測位システムの競演も目を見張らせるものがあった。日本が今年3機の「みちびき」衛星を打ち上げて4機体制にしたのに対し、中国は6機の「BeiDou3(第3世代の北斗)」衛星を投入した。中国通によれば、2018年末までに18機体制に持ち込み、2020年には35機によるコンステレーションを完成させる計画という。
EUが出資し、欧州宇宙機関(ESA)が開発を担当するガリレオ測位衛星については、2機が9月にソユーズロケットで打ち上げられた。30機(24機プラス冗長系6機)で構成する予定のシステムの17機目、18機目となる衛星である。衛星は、ドイツのOHB SystemとイギリスSSTLが製造している。その後ESAは、12月になってさらに4機をアリアン5で打ち上げ、スペアも含めた残りの衛星を2018年から2019年にかけて打ち上げると宣言した。フル稼働するのは、2020年の予定である。一方、本家本元のアメリカでは、最新のGPS 2Fシリーズ12機がすでに運用に入っており、製造中の次世代GPS-3衛星10機の打ち上げを2018年5月から開始すべく準備を進めている。

 

「Satellite 2015」で低周回軌道小型衛星コンステレーション計画をぶち上げたOneWeb社のGreg Wyler創設者。
スカパーJSATは、「InterBEE2017」でKymeta社のアンテナを初出展し売込みを行った。

OneWeb社が「Satellite 2015」で公開したユーザー用の送受信端末。
マレーシアのミアサット社は、4Kと4K+(Hybrid Log-Gamma方式のウルトラHD HDR) 映像の比較デモを行って話題を呼んだ。