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世界の衛星通信業界の動向

2018年における世界の衛星通信・衛星放送ビジネスの現状と動向

筆者 近影
筆者 近影

2018年は、久しぶりに世界の衛星通信・衛星放送業界が日本に注目した年になった。
まず、12月1日に世界に先駆けて新4K8K衛星放送が始まった。同日朝10時に放送サービス高度化推進協会が主催する開局セレモニーが行われ、NHK、民放、スカパー・エンターテイメントなど9事業者、17チャンネルの開局記念番組が紹介された。最も注目を集めたのは、民放4社(BS朝日4K、BS-TBS 4K、BSテレ東4K、BSフジ4K)の共同企画「大いなる鉄路 16,000km走破 東京からパリ行き」だ。タイトルの通り、東京から船でウラジオストクに向かい、シベリア鉄道に乗り、中欧、アルプス、ブルゴーニュなどを経て終着駅パリを目指すドキュメンタリーである。一方、NHKは、開局スペシャルとして南極からの4K生中継、イタリアからの8K生中継を行って話題を呼んだ。
次いで、11月1日に日本独自の準天頂衛星「みちびき」による高精度航法衛星システムの本格的な運用が始まった。初号機の打ち上げは2010年なので、8年かけて4機を駆使する運用体制が実現したことになる。素晴らしいのは、GPSによる測位精度は誤差数メートルなのに対し、「みちびき」は使い方によりわずか数センチの誤差で位置を特定できる。また、4機のうちの1機には、回線は細いが緊急時に通信ができる機能も搭載されている。
さらに、久しぶりに海外の事業者向けにメイド・イン・ジャパンの衛星が打ち上げられた。三菱電機がカタールのエスヘイルサット社向けに製作した「Es'hail-2」衛星である。打ち上げは、11月15日にアメリカのSPACE-X社のファルコン9ロケットで成功裏に行われた。
もう1つ付け加えるとすれば、9月26日にスカパーJSATがインテルサットとのジョイント衛星「Horizons-3e」を打ち上げた。これでようやく日本もハイスループット衛星(High Throughput Satellite:HTS)の仲間入りを果たしたことになる。

日本から世界に目を向けると、まず目立つのはHTSと周回衛星プロジェクトのラッシュである。
静止軌道(GEO)衛星のセクターではHTSの勢力が拡大し、中周回軌道(MEO)衛星、低周回軌道(LEO)衛星のセクターでも積極的な事業展開が見られる。つまり、世界的にGEO、MEO、LEOという宇宙の3軌道をフルに活用する衛星運用サービの新しい時代を迎えている。「Industry 4.0」「Society5.0」といっ
た言葉が浮上しているが、筆者は、これを「Space EO 3.0」と名付けている。「EO」は、もちろん「Earth Orbit(軌道)」で、3軌道をフルに使う3.0コンステレーション時代の到来である。
振り返ってみるとGEOの分野では、直接衛星放送ビジネス(DTH)が謳歌を極めてきたが、このところHTS、VHTS (Very High Throughput Satellite) と呼ばれるマルチビーム超大容量通信衛星が注目の的になり、DTHの潮流が弱まる傾向にある。特に関心を呼んでいるのが、Intelsat/SKY Perfect JSAT、ViaSat、Hughes Network Systems(HNS)、Eutelsatが力を入れているHTS/VHTSシステムだ。
ボーイング社が製作したIntelsat/SKY Perfect JSATの共同HTS衛星「Horizons-3e」についてはすでに触れたが、現在、最も注目されているのは、ViaSat社の1Tbps超大容量衛星「Viasat-3」、HNS社の500Gbpsを誇る「Jupiter-3」衛星と言える。これを追うように5月になって、Eutelsat社が「Konnect VHTS」衛星をタレス・アレニア・スペース社に発注して話題になった。
MEOシステムを着々と構築しているのは、SES社傘下のO3bネットワークスで、すでに16機の衛星を高度8,000キロに打ち上げ、残りの4機を2019年前半に打ち上げる予定だ。これでひと段落かと思っていたら、第2世代の衛星を7機ボーイングに発注して、さらにサービスの高度化を図ろうとしている。「mPower」と名付けられたこの第2世代衛星の伝送容量は1機1Tbpsで、スポットビーム数は1機4,000という前代未聞の衛星になると言われている。
O3bネットワークス以外に、MEO衛星プロジェクト計画を進めているのは、ViaSatとLaser Light Communicationsだ。ViaSatは、高度8,200キロに24機の衛星を、Laser Light Communicationsは、高度10,000キロに12機の衛星を打ち上げる計画を練っている。
LEO衛星に関しては、Telesat Canada、Space-X、OneWeb、LeoSat、Xinwei、Boeing、Kepler Communications、Sky & Space Global、Astrome Technologiesなどが名乗りを上げており乱戦模様を呈している。
最も先行していると思われるのはTelesat Canadaで、同社は、すでに1月に1機の実証試験衛星「Phase 1 LEO」を打ち上げ鋭意通信機能の実証試験を行っている。経営的には、カナダ政府のお墨付きをもらい、11月にはアメリカのDARPA (Defense Advanced Research Project )のBlackjackプロジェクトの契約を取り付けて基盤を固めつつある。同社の計画では、高度1,000キロに当初117機、最終的には234機の衛星を打ち上げるという。
Space-Xは、2月に2機の実証試験衛星「Tintin A(Microsat-2a)」「同B(同2b)」を打ち上げて、Telesat Canadaを追い上げている。同社の「Starlink」コ
ンステレーション計画は非常に野心的で、11月にFCCから7,518機を投入する許可を取っている。
業界で話題が尽きないOneWebは、高度1,200キロに640機の衛星を打ち上げる計画で、2019年の初めからいよいよパイロット衛星の打ち上げを開始する。この衛星の製造を請け負ったAirbus Defense & Space(AD&S)は、3月の「サテライト2018」展示会場のブースで衛星のモデルを紹介し、AD&SとOneWebが米フロリダ州に建設中だった本格的な衛星製造工場も完成したと発表している。
LeoSatには、スカパーJSATとスペインのイスパサットが出資しており、大手ユーザーとしてシグナルホーンが名前を連ねている。同社の計画では、高度1,432キロに78機の衛星を打ち上げ、衛星間を光で接続する最先端技術を駆使するという。パイロット衛星は、目下タレス・アレニア・スペースが製作しており、2019年には打ち上がると思われる。
後塵を拝したものの中国も負けてはいない。中国通によれば、4社が名乗りを上げており、最も積極的なのはXinweiと言われている。同社は、まだ高度を公表していないが、計画上の衛星数は32機とのことである。

次いで、M&Aによる放送・配信プラットフォームの多角化戦略が進んだ。きっかけを作ったのはAT&TによるDirecTVの買収で、結果として同社は、DTH(DirecTV)、IPTV(U-Verse)、OTT(DirecTV Now)の3プラットフォームサービスに手を広げている。今年の第三四半期の業績発表によれば、DirecTVとU-Verseの加入者は35万件減少し、DirecTV Nowの加入者は5万件増加している。
もう一件今年に入って注目を集めたのはCOMCASTによるSKYの買収だ。同社は、400億ドルを投じてSKYを手に入れ、アメリカにおけるCATVビジネスを基盤にして、ヨーロッパで衛星放送を手掛けることになった。IPTVやOTTの浸透を視野に入れて、CATVと衛星放送でどのような相乗効果を生みだすのか業界の注目の的である。
買収は実現しなかったが、Dish Network(衛星放送)、Hughes Network Systems(衛星ブロードバンド通信)、Sling TV(OTT)を傘下に持つエコスターが、6月から7月にかけて移動体通信をけん引するインマルサットの買収を試みて大きな話題になった。プラットフォームの一層の多角化を実現しようとした典型的な例と言って良い。

さらに、中国の「一帯一路一宇」構想が、世界の命運を左右する大きな課題として浮上してきた。よく知られている中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に、
筆者が「一宇」を加えたもので、文字通り「一宇」が意味するのは、中国が推し進める巨大宇宙システムの構築と中国産衛星の海外輸出拡大戦略だ。
「Chinasat」や香港を拠点にする「APStar」による衛星通信・衛星放送への進出は言うまでもなく、中国が構築中の巨大宇宙システムで最も顕著なのは「北斗航法」と呼ばれる中国版GPSシステムと「Tianlian」と名付けられたデーターリレー衛星システムである。北斗衛星の打ち上げは、2000年に2機の試験衛星を打ち上げて以来18年間にわたり続いている。今年に入ってからは、10機の打ち上げが確認されており、総数38機による運用体制に入ったと見なされる。最近の新しい動きとしては、チュニジアに北斗航法システムの運用拠点を建設し、世界を隈なくカバーするフルオペレーションを視野に入れた基盤を固めている。
アメリカの「TDRS」、ロシアの「Luch」に匹敵する中国のデーターリレー衛星「Tianlian」シリーズの打ち上げは、2008年に始まり、2011年、2012年、2016年にそれぞれ1機を打ち上げてグローバルネットワークを完成させた。「北斗航法」と「Tianlian」の両システムを特に取り上げる理由は、中国が打ち上げる数々の観測衛星と無人機の偵察能力を向上させ、タイムリーでより正確な情報収集が実現するからだ。また、中国がロシアや米国と競っている月面着陸無人探査機との通信にも活用する狙いがあると思われる。
中国産通信放送衛星の海外向け輸出戦略としては、すでにナイジェリア、ベネズエラ、パキスタン、ボリビア、ベラルーシ、アルジェリア、ラオスなどで実績を積み重ねている。2018年に入ってからもナイジェリアの「NigComSat-3、同4」衛星とカンボジアの「Techo-1」衛星を受注しており、「2020年に中国は、世界の15%のシェアーを占めるだろう」と中国通は予測している。
2019年に入っても中国の「一帯一路一宇」戦略から目が離せない。

最後に、世界のコンテンツ業界が注目する「MIPCON 2018」が10月にカンヌで開催され、ユーテルサット社が最新の4Kの情報を発表したので紹介したい。これによれば2018年10月現在の4Kチャンネルの総数は142で、この内、衛星で放送されているチャンネルの総数は55に達する。また、衛星で配信されているチャンネルの総数は93を数える。衛星以外では、IPTVによる放送が85チャンネルで、地上波による2チャンネルのトライアルが行われているという。日本の新4K8K放送開始がきっかけとなって、2019年には世界各国で4Kの開局がさらに進むものと思われる。
(2018年12月17日)

12月1日に世界に先駆けて新4K8K衛星放送が始まり、9事業者、17チャンネルの開局記念番組が紹介された。
12月1日に世界に先駆けて新4K8K衛星放送が始まり、9事業者、17チャンネルの開局記念番組が紹介された。

スカパーJSATがインテルサットとの共有衛星「Horizons-3e」を打ち上げて、日本もHigh Throughput Satelliteの仲間入りを果たした。(写真提供:ボーイング)
スカパーJSATがインテルサットとの共有衛星「Horizons-3e」を打ち上げて、日本もHigh Throughput Satelliteの仲間入りを果たした。(写真提供:ボーイング)

低軌道周回衛星プロジェクトで、最も期待されているのがOneWebだ。(写真提供:エアバス)
低軌道周回衛星プロジェクトで、最も期待されているのがOneWebだ。(写真提供:エアバス)