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世界の衛星通信業界の動向

2021年における世界の衛星通信・衛星放送業界の動向

筆者 近影
神谷直亮(Naoakira Kamiya)
衛星システム総研 代表
日本衛星ビジネス協会 理事

2021年の特筆すべきイベントとしては、「サテライト会議・展示会2021」(主催:Access Intelligent社)が挙げられる。第40回という節目を迎えたこのコンベンションは、9月7日から10日まで米メリーランド州のナショナル・ハーバー・コンベンション・センターで開催された。当初の発表では、3月15日から18日まで開催することになっていたが、新型コロナウイルスの感染が収まらず9月まで延期したうえでリアルでの開催に踏み切った。
緊急事態宣言下ということもあり、筆者は残念ながら参加できなかったが、現地の衛星通信業界の知人や報道関係者などから入手した情報によると、「参加者の総数は例年の半分位で、海外からの出席者のほとんどは隣国カナダ人であった」という。ちなみに、来年の「サテライト会議・展示会2022」は、「Expanding Horizon. Creating Opportunities」を旗印に掲げて3月21日から24日までWalter E. Washington Convention Centerで開催される予定である。

今回の「サテライト会議・展示会2021」のハイライトは、インドのBharti Enterprises社Sunil Bharti Mittal会長による基調講演であった。昨年は、「Starlink」と呼ばれる低軌道周回衛星(LEO)コンステレーションを推進するSpaceX社のElon Musk CEOが基調講演者を務めて注目を集めたが、今年は、「Starlink」と競合する「OneWeb」コンステレーションの強力な後ろ盾となっている Bharti Mittal会長が選ばれた。
コロナ禍が収束していない環境下ということもあってオンラインで登場したBharti Mittal会長は、講演の冒頭で「OneWeb社とAT&T社との戦略的パートナーシップ契約の締結」を発表して大きなニュースとなった。OneWeb社は、すでに英国のBTグループや米国のアラスカ・コミュニケーションズ社との提携を公表していたが、相手がAT&Tということもあり反響が大きかった。
Bharti Mittal会長は、「これを契機に2022年末までにさらに多くの通信事業者と契約を結んでいく。LEOコンステレーションによるユニバーサルなコネクティビティの実現には、世界各国の大手通信事業者との提携が欠かせない」と強調している。

次いで、毎年のように初日の開幕を飾ってきた世界を代表する衛星通信事業者のCEOによる討論会が開催されたが、すっかり様変わりの様相を呈した。昨年の登壇者は、名実ともに世界のビッグファイブと位置付けられる5社(Intelsat、SES、Eutelsat、Telesat、ViaSat)のCEOが居並んでいたが、今回の参加者はLEOオペレーターが3社(OneWeb、SpaceX、Iridium Communications)、静止衛星(GEO)オペレーターが1社(Arabsat)という顔ぶれで、セッションのタイトルは、「Operators Balance New Space Excitement with Closing the Customer Business Case」であった。
OneWeb社のNeil Masterson CEOは、「コンステレーションは、44%完成した。今年11月には、50度以北の地域をカバーし、2022年末にはグローバルカバレージを実現する。OneWebのようなLEOと大手衛星通信事業が運用するGEO衛星間のインターオペラビリィティは可能と考える。特に注目のIn-Flight-Connectivity分野では、急激に技術的な転換を行うのは不可能と考えるので、しばらくGEOとLEOの共存が続くと思う」と述べていた。
Starlink LEOプロジェクトを推進するSpaceX社のBret Johnsen CFOは、「すでに1,700機のコンステレーションを構築した。北極を除くグローバルカバレージが実現できている。Starlinkのユーザー登録数は、1万を超えた。現時点では、コンシューマーを中心にマーケティングを行っているが、今後は、企業向けや通信事業者のバックホールビジネスなども狙っていく。現時点で、端末を含めたネットワークのコスト削減という課題が残っている。しかし、SpaceXの強みは受信アンテナも含めたバーティカル・インテグレーションができていることである」と強調したという。
Iridium Communications社のMatt Desch CEOは、「Iridium Nextは、モバイルコミュニケーション分野で、今や欠く事のできない地位を確保できた。立ち上げた当初は、LEOビジネスは成功しない、衛星間通信など必要ないと言われたのが信じられないくらいだ」と同社の歴史を振り返った。一方で「新規LEOオペレーターの出現で衛星の製作コストが下がり、次世代のイリジューム衛星は、より経済的に製作出来ると思う」と明るい見通しを述べた。
中東でGEO衛星を運用するアラブサットのHadi Alhassani, VP兼 CSO (Chief Strategy Officer)は、「積極的なビジネス戦略で注目を集めているLEOコンステレーションのオペレーターを歓迎したい。衛星通信業界にとっては良い刺激となっている。アラブサットは伝統を誇るGEOオペレーターだが、新興のオペレーターに負けない健全な経営を維持できている。残念なのは、アジアや中東で中継器の過剰供給の兆候が見られることである」と述べた。司会者からLEO計画についての対応を聞かれたのに対しては、「検討はしたが、どの事業者も説得力のあるビジネスケースを示すことができなかった」と答えていた。

会期の初日には、「Operators Seek Diverse Business Models to Add Value」と題する討論会も開催され、Hughes Network Systems(HNS)、Intelsat、Yahsat、SESの4社が参加した。
HNS社のRamesh Ramaswamy EVPは、「最近のビジネスモデルの典型的な傾向として、垂直統合によりバリューチェーンをコントロールする企業が業界の勝者になりつつある」と指摘した。
これに対してIntelsatのBill O’Hareメディア担当VPは、「垂直統合よりインフラストラクチャーの拡大がより重要である。Intelsatは、コネクテティビティのスケールを高めるために、インフラストラクチャーの広域化に腐心してきた。Software-defined衛星の出現でますますこの傾向が強まっている。インフラストラクチャーの急拡大により、宇宙からでもカストマーの要求に効率的に対応できるようになりつつある」と反論した。
Yahsat社のAmit Somani CSOは、「ビジネスモデルの刷新が、今後のカギを握っていると思う。具体的には、多様化するサービスモデルのバンドリング、戦略的なモデルとしてのパートナーシップ契約の締結などが考えられる」と語った。
SES社のElias Zaccack SVPは、「現在、SESの売り上げの60%がビデオ関連である。ビデオ市場は、すでに成熟しているのでデータビジネスに重点を移して売り上げを伸ばしている。ビデオモデルからデータモデルへの変換点に立っていると言って良い」と同社の経営状況をもとに説明していた。

会期2日目のセッションのハイライトは、「The Satellite Industry’s Future in a Hyper-connected World」であった。衛星通信業界の将来に焦点を当てたこの会議には、SES社、ST Engineering iDirect社、SpaceX社、Facebook社の代表が出席した。
SES社のSteve Collar CEOは、オンラインで参加し「衛星通信業界の課題は、ネットワークの仮想化とクラウドの活用による強力な関係を築くことである」と切り出して注目を集めた。彼の念頭には、将来構想としてGEO、MEO、LEOのマルチオービット衛星によるキャリアグレードの仮想サービスとクラウドを視野に入れた巨大なエコシステムの構築があるように思われた。
ST Engineering iDirec社のKevin Steen CEOは、「衛星通信事業者は、地上系通信事業者との6G規格の討論に積極的に関与すべきである。両事業者間のインターオペラビリティが、今後の重要なファクターになる」と述べ、さらに「クラウドと仮想化への投資にもっと注目すべきである」と付け加えたという。
LEO衛星をけん引するSpaceX社のJonathan Hofeller VP (Starlink Commercial Sales担当) は、「Starlinkは、すでに15か国で10万の希望者にトライアルの機会を提供している。より良い接続環境をもとめるユーザーは、まだまだ多い」と強気の発言に終始した。
予想外の参加者として注目されたのは、FacebookのBrian Barrittコネクティビティ担当リーダーである。同氏は、「過疎地を対象にした衛星通信の重要性は無視できない。Facebookと衛星通信事業者との協力関係は,欠くことのできないレベルに達している。両者のバリューチェーンを強化するうえでの課題は、通信機器、通信端末の価格だが、携帯電話事業者がたどったオープンな携帯電話開発史からそのメカニズムを学ぶべきである」と提案した。

2日目には衛星メーカーのセッションも行われ、Northrop Grumman、Airbus Defense & Space、Boeing Commercial Satellite Systems International(BCSSI)など6社の代表が出席した。
Northrop Grumman社のFrank DeMauro VPは、「パンデミックでグローバルなサプライチェーンに支障が出た。特殊な例としては、液体酸素のような危険物を運ぶトラックの運転手が足りなくて困ったこともあった。パートナーシップという強力な関係強化を痛感した」と振り返っていた。
AirbusのJean Marc Nasr EVPは、「Optical Data LinkやOn-board Computerのような致命的なコンポーネントについては、すべて内製に切り替えて窮地を脱した。特に数をこなす必要のあるLEO衛星の製造を維持するためには、コンポーネントサプライヤーとの緊密な関係が必要であることを再認識した」と述べた。
BCSSI社のRyan Reid, 社長も「ユニークなコンポーネントについては、サプライヤーとの緊密な連携が非常に重要となり強化に努めた」と強調した。コロナ禍での衛星メーカーの苦労は並大抵ではなかったように思われた。

 

 「サテライト国際会議・展示会2021」のレポートはこのくらいにして、LEOオペレーターの最近の動向に触れたいと思う。
OneWeb社は、9月15日に34機、10月14日に36機の衛星を成功裏に打ち上げ、累計358機のコンステレーションを構築している。これで第一目標の648機の半数を超えたことになる。2021年末までに3分の2のコンステレーションを達成できるかどうかが次の課題だ。
OneWeb社の最近の動向で目立つのは、戦略的販売代理店契約である。すでに触れたが、まず、9月9日にAT&Tとの契約に調印した。AT&Tの狙いは、米国のデジタルデバイド地域に存在するSMEのネットワーク化、過疎地に建設予定の携帯電話中継局のバックホールと思われる。コンベンションに参加中のOneWeb社Neil Masterson CEOは、本契約について「OneWebのビジネス展開に弾みをつける重要な契約だ」と語っている。
次いで、9月16日にカナダのGalaxy Broadband社との販売代理店契約を締結した。Galaxy社は、同社が既に展開している静止衛星(GEO)によるSDWANサービスにOneWebによるLEOネットワークサービスを加えることで業容の拡大ができると判断したようだ。
OneWeb社は、9月21日にTrustComm(本社:米テキサス州)の買収にも踏み切った。政府関連ビジネスの拡大を目指すのが狙いで、社名をTrustCommからOneWeb Technologiesに変えて子会社として運用するという。
資金面では、新規出資者として韓国のHanwa Systems社が加わった。同社は、8月12日に3億ドルの出資を行い、Youn Chul Kim CEOが「Hanwa Systemsの衛星ビジネスとアンテナ技術でOneWebのグローバル展開に貢献する」と述べている。
OneWeb社は、受信端末メーカーとの協調体制も着々と整えており、9月にはQuadSAT社(本社:デンマーク)のアンテナを認証し、Kymeta社(本社:米ワシントン州)が開発したソフトウエアーベースの「u8アンテナ」による通信実験にも成功したとの発表を行った。フランスのトウルーズで行った「u8アンテナ」の通信実験では、「上り40Mbs,下り200Mbpsを実現し、GEOとLEO両用のアンテナとして提供できる」という。
OneWeb社は、さらに韓国のIntellian Technologies社と7,000万ドルに及ぶ平面アンテナの開発契約を締結済みで、すでにこのElectronically Steered Antennaで実証試験を実施している。「OW1」と名付けられた平面アンテナは、ブリーフケースのサイズで重量は約10kgに仕上っているという。
日本市場,については、ソフトバンクが出資者として名を連ねているので、当然のことながらビジジネスは同社が牛耳ると思われる。まだ、具体的なビジネス展開については発表がないが、後述するKDDIと同様にまず携帯電話網のバックホールへの活用が考えられる。

SpaceX社については、9月13日に行われたKDDIとのパートナーシップ契約が注目を集めた。KDDIの報道発表によれば、「高速・低遅延の衛星ブロードバンドインターネットを提供する米SpaceX社のStarlinkシステムをau基地局のバックホール回線に利用する契約を結んだ」という。これまでサービス提供が困難とされていた日本の山間部や島嶼地域をカバーし、災害発生時においてもauの高速通信が安定して使えるようにするというのが最大の目的と思われる。今後のスケジュールに関しては、「実証実験の免許は、総務省からすでに取得済みで、本免許の取得は年末になる見込みである。2022年をめどに全国1200カ所のau基地局とStarlink衛星回線の接続を順次実現していく。KDDIの光回線網と衛星回線を結ぶゲートウエイ局は、すでに山口衛星通信所に構築済み」と述べている。
SpaceX社によるStarlink衛星の打ち上げ状況に関しては、9月14日に51機、11月13日に53機が投入され単純計算で累計1841機のコンステレーションが構築されている。同社の第1フェーズは、「1,584機(22機 x 72周回軌道)で構成する」と言われていたのでこの目標をすでに超えた。
一方、SpaceX社自体の経営状況については、このところいろいろな情報が飛び交っている。例えば、稼働中のStarLink衛星は、11月中旬に累計1841機に達しているが、約100機はすでに軌道からはずされており、さらに50機が近いうちにDeorbitされるという情報が浮上した。また、6月30日から9月14日まで約2カ月半にわたって打ち上げを行わなかった理由については、「5月の打ち上げに不具合が見つかったから」とか「光で衛星間通信を行えるように改良中のため」といった情報が行きかった。
さらに、SpaceX社は、8月6日にSwarm Technologies社(本社:カリフォルニア州マウンテンビュー、121機のPico IoT Satelliteを運用中)を買収して子会社化するという予想外の戦術を打ち出した。SpaceX社にとって第1号の買収案件であるが、構築中のStarLink LEOコンステレーションとどのような相乗効果を狙っているのかがはっきりしておらず不可解な様相を呈している。Swarm社は、VHFバンドを搭載したLEO衛星とSwarm Tileと名付けたアンテナを使用してIoTコネクテイビテイサービスを行っている。

アマゾン・ドット・コムが推進する「Project Kuiper」は、しばらく鳴りを潜めていたが、11月に入って動きを見せた。同社の1日付け報道発表によれば、「実証実験用2機の衛星の打ち上げについて連邦通信委員会に認可申請を行った。打ち上げ予定は2022年第四四半期で、打ち上げロケットはABLスペース・システムズ社のRS1を使うことにした」という。同社は、ワシントン州レッドモンドにあるKuiper Systemsの開発拠点で着々と準備を進めているようだ。

一方、GEO衛星の分野では、軌道上でサービスエリアや周波数の割り当てをニーズに応じて変更できるSoftware-Definedサテライトが注目の的だ。この分野を牽引しているのはフランスのエアバス社で、同社が提唱する「OneSat」衛星プラットフォームは、すでにオーストラリアの「Optus-11」、日本の「Superbird-9」、英国の「Inmarsat GX」などに採用されて製作が始まっている。
(2021年11月19日)

サテライト国際会議・展示会2021
第40回を迎えた「サテライト国際会議・展示会2021」は、9月7日から10日まで米メリーランド州のナショナル・ハーバー・コンベンション・センターで開催された。

SpaceX社は、9月14日に51機のStarlink衛星を投入
SpaceX社は、9月14日に51機のStarlink衛星を投入し単純計算で累計1788機のコンステレーションを構築している。(©spacex.com)

「OneSat」プラットフォーム
エアバス社が提唱する「OneSat」プラットフォームは、すでにオーストラリアの「Optus-11」衛星に採用されている。(©optus.com)